研究実績の概要 |
膵臓癌は発見時に患者の約40%において既に他臓器への転移がみられ, 術後の再発率も高い難治性癌である. このため, 本疾患の早期診断・治療介入は患者の生命予後を大きく左右する. 本研究では所属研究室で独自に開発した有機シリカナノ粒子の内部又は表面にターゲティング能及びイメージング能を有する機能性ナノ粒子を創製し, 膵臓癌の早期診断用ツール開発の基礎検討を行った. 陽性電荷を持つポリエチレンイミン (PEI) は負に帯電した核酸やタンパク質と静電的に強固に結合するのに加え, 高い細胞膜結合性を有するため薬物送達システムの研究領域において汎用されている. 今回, 研究代表者はこうしたPEIの特性に着目し, これをナノ粒子表面に修飾した蛍光有機シリカナノ粒子を作製し, 細胞標識能について評価を行った. すなわち, 有機シリカナノ粒子表面にPEIを非共有結合的に修飾し, 5種類の細胞 (腫瘍細胞3種及びマクロファージ様細胞2種) に対して細胞標識効率を蛍光顕微鏡観察及びフローサイトメトリーにより定量的に評価した. 腫瘍細胞を用いた実験においては, PEI非修飾粒子を用いた場合, 細胞への結合が殆どみられなかったのに対し, PEI修飾粒子では90%以上の非常に高い結合が確認された. さらに, 癌転移のトレーサーとしての有用性を確認するため, マウスに標識腫瘍細胞を経静脈的に投与して観察したところ, 組織切片にて標識細胞を一細胞レベルで検出可能であった. また, 標識細胞種によって異なる臓器分布を示すことも明らかとなった. 以上の結果から, PEI修飾有機シリカナノ粒子を活用した標識細胞イメージングの可能性が示唆された. 本粒子は癌の血行性転移等のメカニズム解析のみならず細胞移植をはじめとする再生医療への貢献が期待できる.
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