研究実績の概要 |
2017年末、米国で高血圧症の基準が改定され、より厳格な血圧管理が求められるようになった。これまで高血圧症の病態研究では、心臓・血管系の直接的な関わりに加え、腎臓と中枢神経の機能に重点が置かれてきた。本研究は、「体液貯留により血圧の緩衝作用を有するリンパ管に着目し、集合リンパ管機能障害による体液貯留機能の消失が血圧上昇のリスクとなる可能性」を明らかにすることを目的とした。具体的には、炎症性反応による活性酸素種産生がリンパ管機能を障害するとの仮説を立てた。本研究実績の概要は以下のとおりである。 本研究では、10~12週齢の自然発症高血圧ラットSHRおよびウィスター京都ラットWKYの胸管の機能を検討した。まず始めに、WKYの胸管において、アセチルコリン(ACh)による内皮依存性弛緩反応(Maximum Relaxation, 76±5%)およびSodium nitroprusside (SNP)による内皮依存性弛緩反応(80±4%)を有することを確認した。次に、SHRが高血圧状態であることを確認した(SBP, 183±9 mmHg)。SHRの胸管において、WKYと比べAChによる弛緩反応が強く抑制されていた(35±2%)。また、SHRにおいて、SNPによる弛緩反応曲線は右方移動した。一酸化窒素(NO)合成阻害薬L-NAMEにより、WKYにおけるAChの弛緩反応は有意に抑制されたが(77±9% vs. 26±6%)、SHRにおいて弛緩抑制はみられなかった(30±9% vs. 37±5%)。抗酸化薬tempolの前処置により、SHRにおけるAChの弛緩反応は有意に増強した(31±6% vs. 68±10%)。 高血圧を呈するSHRにおいて、集合リンパ管の弛緩機能は強く障害され、この障害には活性酸素種の関与が示唆された。
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