令和元年度の研究は、ほぼ研究実施計画の通り、パターナリズムを含む合理性の問題と、自らの構想に適合する具体的な分配施策の検討であった。後者の検討は、令和元年度もベーシック・インカムを中心に行われた。基本的な態度としては昨年度と大きく変わらず、有望ではあるものの、やはり理論的に完全にフィットするものではないが、より具体的・実践的な政策として捉えた場合にリバタリアニズムとの相性の良い面、より好意的に評価すべき美点があることも分かった。本研究課題の特徴である理論から実践、制度の問題として考える場合に、これらの点をどのように重みづけして考慮するのかも検討する必要があり、より複雑な問題を含むことが分かった。 前者については、リバタリアン・パターナリズムの検討が中心となった。提唱者で中心人物のサンスティーンの新著について検討し、自由や責任観の問題点や、(恐らく意図的な)攪乱的な用語法と実態を批判的に検討した。一方で、これによって反射的にリバタリアニズムが自明視している自由観とその含意・構想の曖昧さなどもより浮き彫りになった。この点は実施計画にも書いた人間観やこれにまつわる様々な価値の問題にもかかわるので、引き続き検討する必要がある。 令和元年度に公表された研究成果は、フランスの経済哲学雑誌に収録された英語論文一本である。しかし、諸般の事情で公表に至らなかったが、年度内に公表されるはずであった論文もう一本が令和2年5月中に公表される予定である。
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