研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、19世紀から20世紀にかけてフランス的ピアノ演奏の特徴とされてきた演奏様式「ジュ・ペルレ(真珠飾りのような演奏)」が、1841~89年にかけてパリ音楽院のピアノ教育において制度化される過程及び背景を明らかにすることを目的として開始された。令和2年度の研究は、まず当初の計画通り1)パリ音楽院定期試験における教授による生徒の学習進捗状況報告書(1880-89)(教授報告)及び2)試験官が定期試験時にとるメモ(試験官メモ)の転写作業と分析を行った。これらの資料に真珠(perle)とその形容詞形は一度も用いられていないことが分かったが、その質を表す形容語は認められた。とくに、精神的美質として「知性」に関する語の使用が際立っていた。また、特にH. フィッソ教授、H. デュヴェルノワ教授の試験官メモでは「明晰clair」や「明瞭net」といった響きの美質に関する形容語も多く用いられていた。当初の計画では令和2年度は教則本のテクストに基づいて「ジュ・ペルレ」関連語を詳細に調べる予定であったが、令和元年度の研究でおおむね傾向が分かったため、SPD評価書から着想した演奏自体の分析を試みた。対象としたのはサン=サーンスが1905年に記録した《ノクターン》作品15-2の演奏のピアノ・ロールから抽出した音価の計量データである。研究の観点を「明晰(clair)」に設定し、タッチ、フレージング、旋律表現の3点から彼が何を明瞭に聴かせようとしているのかを、彼のショパン演奏様式、とくにルバート奏法(旋律と伴奏のずれ)についての記述と照合しながら明らかにした。結果として、ルバートは無秩序に使用されるのではなく構造的な区切れや転調、声楽的な局所的抑揚を際立たせるために意識的に使用されていること、装飾的なパッセージでは伴奏のテンポは緩めず演奏するため「ペルレ」な効果が生まれていることが分かった。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of the Faculty of Letters, The University of Tokyo, Aesthetics
巻: 45
日本チェンバロ協会 年報 2019
巻: 3 ページ: 97-119
日本チェンバロ協会 年報