研究実績の概要 |
本年度にはFano多様体やベクトル束に関する研究として2つの研究成果を得ることができ, その内容について論文を執筆, プレプリントサーバーarXivから発表した.以下に内容を詳述する.
接束がネフな射影代数多様体の幾何学については, 標数0においては多くの研究成果が得られていた一方で, 正標数の場合には多くは知られていなかった. 本年度には, 渡辺究氏との共同研究において正標数の代数多様体であってその接束がネフなものの構造定理を2つ与えた. ひとつは「その端射線収縮が滑らかである」という定理である. もうひとつは「Fano多様体からなる部分と数値的平坦な部分に分解できる」という定理である. いずれも標数0の場合にはCampana-Peternell 及び Demailly-Peternell-Schneider によって確立されていたが, 似た結果が正標数の場合にも成り立つことが証明できた. とくに「端射線収縮が滑らかである」という定理は, Campana-Peternell予想を調べる上で基本的であり, 今後正標数CP予想の研究に展開が見込まれる.
また前年度にはFano多様体上の接束の安定性について論文を執筆していたが, 本年度には引き続きFano多様体上の安定性条件についても研究を行った. 前年度にはPasquierによって分類されていた7種類のFano多様体の接束が安定かどうか調べ, 「Picard数が1のFano多様体の接束は安定である」という予想の反例を与えていた. 本年度には引き続きこの7種類の例について, Kaehler-Einstein計量があるかという問題を考えた. この問題は7種類のうち2種類については当初には明らかではなかったが, その2種類についてもKE計量があることを証明した. このことは独立にDelcroixによっても示されている.
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