本研究では、深海熱水域固有動物の初期生活史、分散動態および進化史を解明することを目的に、海洋における浮遊幼生の空間分布評価、ならびに成体標本解析に基づく進化過程の推察を行った。海洋研究開発機構所有の海底広域研究船「かいめい」による調査では、鉛直多層式開閉ネットを用いて、深海熱水噴出域近傍から表層における浮遊幼生の採集を行った。特に沖縄トラフにおける熱水噴出域直上水塊では、二枚貝幼生が複数採集された。形態ならびにDNA塩基配列に基づく種同定の結果、本幼生は熱水噴出域固有シンカイヒバリガイ類の一種であることが明らかとなった。本採集記録は、海流構造に基づいた同海域の幼生分散モデルに、生物密度や分散水深などの制約を与える新規の生物学的知見である。また、熱水域固有腹足類の幼生行動を復元する手法開発にも着手し、今後、同幼生について鉛直行動の有無を評価することができると期待される。幼生分散動態評価と並行して、シンカイフネアマガイ亜科の分子系統解析、貝殻・軟体部の形態比較および化石記録の参照を行い、1)本亜科が1新属を含む3属からなり、熱水域または冷湧水域の種で構成されること、2)各属は新生代初期に起源をもつこと、3)笠型の殻は巻いた殻を祖先型とし、笠型化は熱水環境への進出に伴って2度独立に生じたことを明らかにした。これら研究成果について、日本貝類学会平成30年度大会、15th Deep-Sea Biology Symposiumおよびブルーアースサイエンス・テク2019で発表を行うとともに、Zoological Journal of the Linnean Societyにおいて誌上発表を行った。
|