研究実績の概要 |
温度は、常に地球上に存在する重要な環境情報であり、動物の温度に対する応答や耐性機構の解明は重要な課題である。本申請者は、線虫C. elegansの低温耐性に関わる新規変異の原因遺伝子を同定した。原因遺伝子はプリン体代謝経路で働き、キサンチンから尿酸への酸化を触媒する酵素キサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH-1)であった。xdh-1変異体の低温耐性異常は、AINとAVJと呼ばれるわずか2つの介在ニューロン内のxdh-1遺伝子が異常になることで引き起こされており、カルシウムイメージング法により、xdh-1の異常が二つの介在ニューロンの温度に対する反応にも異常をもたらすこともわかった。 AINとAVJは情報を橋渡しする介在ニューロンであるため、上流に温度を感知する感覚ニューロンが存在しいていると考え、様々な神経間ネットワーク解析と変異体の表現型解析を行った。その結果、「機械刺激を受容するメカノレセプターDEG-1が個体の低温耐性を制御する」という予想外の結果が得られた。そこで、カルシウムイメージング法と細胞特異的回復実験を組み合わせた解析をおこなうことで、メカノレセプターDEG-1が発現しているASG感覚ニューロンがAIN、AVJ介在ニューロンに温度情報を送る新たな神経回路があることを発見した。また、温度上昇を受容しないニューロンやアフリカツメガエルの卵母細胞にメカノレセプターDEG-1を異所的に発現させ、カルシウムイメージング法や電気生理学的解析によってDEG-1が機械刺激以外に温度も感じていることを明らかにした。さらに、同様に、カエル卵母細胞にヒトのメカノレセプターMDEG1を異所的に発現させ、解析を行うことで、ヒトのMDEG1も温度に反応することを見つけた(Takagaki et al., EMBO reports, 2020.)。
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