研究実績の概要 |
アミロースカルバメート誘導体は、液体クロマトグラフィーのキラル固定相として医薬品などの光学活性物質の精製や分析に使用される高分子である。そのキラル認識機構には、高分子鎖の局所形態が関与しているといわれてきたが、局所形態がキラル分離能力に影響するかは明確になっていなかった。最近、我々は市販のキラルカラムに用いられるアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート) (以下ADMPC)とその環状分子(cADMPC)が、固定相調整前の溶液中において、異なる局所形態を持つことを見出した。そこで本研究では、ADMPCとcADMPCそれぞれを担体であるシリカ粒子上に塗布することで塗布型キラル固定相を調製し、それらを充填したカラム上で8種類のラセミ体を展開することにより、両者のキラル分離能力を比較した。また、架橋点となる置換基を全側鎖の数%程度導入したADMPCとcADMPC(以下それぞれADMPCiおよびcADMPCi)を調製し、それらをシリカゲル上で架橋することで得られた化学結合型固定相ともキラル分離能を比較した。 塗布型cADMPC固定相は塗布型のADMPC固定相と異なるキラル分離能を示し、環状鎖と線状鎖の局所形態の違いがキラル分離能に影響することが明らかとなった。また、塗布型cADMPC固定相のキラル分離能は化学結合型のADMPCi固定相のそれと似ており、ADMPCi鎖上の二つの架橋点間の部分鎖の局所形態がADMPCよりもcADMPCに近くなっていることが示唆された。一方、化学結合型のcADMPCi固定相はADMPCi固定相と似たキラル分離能を示し、塗布型固定相に見られるような環状鎖と線状鎖のキラル分離能の違いは見られなかった。架橋用側鎖の割合が数%と比較的多い条件下においては、架橋により局所構造が影響を受けるため、分子鎖のトポロジーによる影響が重要でなくなることが分かった。
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