令和元年度は、共同研究者の協力を得て取得したデータの解析を中心に行った。昨年度に測定した高齢者を対象にした調査データと、病院に来院した高齢者を対象にした検査データについて、詐欺脆弱性尺度と展望的記憶との関連を検討した。展望的記憶の測定としては認知検査の遅延再生というより厳密な方法を用いた。分析の結果、詐欺脆弱性と展望的記憶に関連は見られず仮説は支持されなかったが、本研究で使用した詐欺脆弱性の尺度に再考の余地があるとも考えられ、今後解決していくべき課題を発見することができた。また、これらの取得したデータの解析結果等については、共同研究者とともに日本心理学会第83回大会の公募シンポジウムにおいて発表を行った。 次に、別の観点から詐欺の広報啓発に関する問題についての検討も行った。広報啓発を見聞きしても「自分は騙されない」と思う傾向について、架空の詐欺の被害事例を用いてオンライン調査を行った。調査参加者はある詐欺被害者に関する記事を読み、被害者にどの程度騙された原因があるか、その手口にどのくらい騙されると思うかを評定した。その結果、被害者に非があるような事例では、「自分は騙されない」とは思わないことが示され、先行研究の知見が拡張される結果となった。更に、この傾向は被害金額にも影響されることがわかった。以上の結果は、詐欺の広報啓発の際に注意しなければならない点について、応用的な示唆を与えるものであった。
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