本研究の課題は、①幕藩制国家によるアイヌ支配のあり方について研究し、②アイヌ側がその支配にいかに対応したかを追求しようとするものである。 ①について、統一政権(江戸幕府)・松前藩・アイヌ民族の三者関係史に関わる論文が、『古文書研究』に掲載されることが決定した。さらにこの三者関係史を、豊臣政権期まで遡って考察した論文を新たに執筆し、学会誌に投稿した。この査読結果はまだ返されていない。さらに研究を進めるうち、松前藩法の中に、江戸幕府の命令の規定を受けた、アイヌに関する法令があることに気付いた。そこで、現在、松前藩法の研究も進めている。 これらの研究は、統一政権(豊臣政権・江戸幕府)・松前藩(蠣崎・松前氏)・アイヌ民族の三者関係史を論じたものであるが、特に統一政権と松前藩との関係に軸が置かれた。そのため、当初目指したアイヌ支配のあり方の解明という点からは課題が残った。 ②について、津軽のアイヌが弘前藩の支配を受けることにより、名前についての慣行を変化させたことについての論文を学会誌に投稿した。査読者から、追加の史料調査の必要を指摘された。そこで、後期は、関連史料を収集した。論文の修正は次年度の課題に残した。 関連史料の調査成果として、幕臣・井上貫流による蝦夷地警備史料の翻刻に参加し、『道歴研年報』20号・21号に連載されたことがある。また、東北大学と北海道大学の合同で行われた、蝦夷地警備に従事した仙台藩士の文書の調査・保全活動に参加した。これら調査を通して、アイヌ民族に関する情報を確認した。 また、『シリーズ日本近世史を見通す 第一巻』(仮題)の「第七章 列島北方の近世」(仮題)の執筆を依頼された。さらに、『アイヌ文化史辞典 第一巻 ヒト』(仮題)より、6項目の執筆も依頼された。ともに、本研究と関わる内容であるため、受諾した。現在執筆を進めている。出版社はともに吉川弘文館である。
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