新規材料として知られる共結晶を、所望の品質を持つ均質な粒子群として製造するためには、①粒子全てが所望の共結晶であることが担保され、かつ②結晶品質が制御される必要がある。①についてはこれまでの研究で知見が得られている。平成30年度は、結晶化の推進力である過飽和を算出する方法について検討し、過飽和生成操作・過飽和の大きさ・結晶品質の関係を整理する計画であった。 当初の計画通り、実験系にはカルバマゼピン-サッカリン-メタノール-水の4成分系を用いた。従来の単成分結晶の晶析で用いられている複数の近似式を適用する検討を行い、共結晶が析出する推進力の算出方法を決定した。次に、反応法とanti-solvent添加法の2種類の過飽和生成操作を用いて、過飽和生成操作と過飽和の大きさ、そして結晶品質との関係を検討した。実験条件は当初計画していた通り四成分相図を用いて設定することができた。検討の結果、生成した濃度差推進力の大きさが一定のとき、過飽和生成操作の種類によって結晶粒子の外形が異なった。また、従来と同様に過飽和度が結晶品質に強く影響していることが明らかになった。 平成30年度に予定していた外形変化の整理および平成31年度に予定していた結晶外形決定のメカニズムについて知見が得られたので、それらの知見を総合した。その結果、多成分相図を用いて操作点を設計することで、品質がコントロールされた共結晶粒子群を、単成分結晶の析出リスク低く製造することができ、共結晶を所望の品質を持つ均質な粒子群として製造できるという操作指針を提案できた。複数の成分が夾雑する中での所望の結晶以外の結晶のリスク低減という概念を提案した点と、単成分結晶の晶析で用いられている推進力での品質制御をより複雑な夾雑系での選択的な共結晶の晶析に応用することを可能にした点で、本研究の結果には学術的にも社会的にも意義があると考えている。
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