研究実績の概要 |
冠動脈用ステント材料であるCo-Cr系合金の疲労特性の改善に向け前年度はFCC相とHCP相の相安定性を制御したCo-20Cr-10Mo-xNi合金(wt. %)の変形様式と疲労特性の調査を行った。その結果±1%ひずみ変形下で実用材料に比べ2.5倍の疲労寿命を有するCo-20Cr-10Mo-(26, 29)Ni合金を開発することができた。これらの合金は実用材料と同等以上の伸びと強度、顕著な加工硬化率の増大を示した。しかしその微細組織の発達過程は不明であったため当年度はHCP相と変形双晶が塑性変形挙動と力学的特性に及ぼす影響について詳細な調査を行った。 Co-20Cr-10Mo-(20, 26, 35)Ni合金に真ひずみε = 0.04, 0.12, 0.25を与えX線回折測定、微細組織観察、方位解析を行った。加工硬化率が増大しない20Ni合金ではε = 0.04でHCP相が、26Ni合金では加工硬化率増大後のε = 0.12でHCP相と変形双晶が認められた。35Ni合金では同ひずみ量で変形双晶が認められた。この結果から26Ni合金では大きなひずみを受けた後にHCP相と変形双晶の両方が生じ加工硬化率が増大することが明らかになった。その大きな伸びは加工硬化によるくびれの抑制に起因していると考えられる。 これらの合金の相安定性について熱力学ソフトウェアThermo-CalcとデータベースTCNI9を用いて評価を行った。当評価はマサチューセッツ工科大学にてG. B. Olson教授の協力を得て行った。FCC相とHCP相の自由エネルギー差はNi量の増大に伴って上昇し平衡温度はNi量約24%で室温となることが分かった。本結果はCo-20Cr-10Mo-(26, 29)Ni合金の平衡温度が室温近傍であり引張圧縮変形に際して可逆的な相変態が起きやすいために長疲労寿命となったことを示唆している。
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