研究実績の概要 |
高齢化社会の現代では健康寿命延伸が緊要であり、それには脳の適切な機能発現が必須である。認知症にも用いられる適度な運動によっても脳機能は亢進するが、これはノルアドレナリンによる働きであると考えられている。しかしながら、ノルアドレナリンによる脳機能調節作用は未だ不明な点が多く、それ故運動による脳機能亢進効果の神経基盤は明らかにはなっていない。 そこで本研究は、これまでの研究で明らかになっていた、ノルアドレナリンはβ 受容体を介して視覚刺激検出能を知覚レベルで向上させるという行動薬理実験の知見を基に(Mizuyama et al., 2016)、その神経基盤を解明することを目的として行った。 上記目的達成の為、当該年度(平成30年度)においては、様々なコントラストの視覚刺激に対する、ラット一次視覚野ニューロンの応答を電気生理学的手法によって記録し、その応答に対するβ阻害薬の効果を検討した。その結果、視覚刺激コントラスト-神経応答曲線の上方シフトがβ阻害薬投与によって引き起こされることを明らかにした。これは、β受容体の阻害により、視覚刺激の提示を伴わない神経活動である自発発火頻度(ノイズ)が増強し、その結果として相対的な神経応答(シグナル)の強度、シグナル/ノイズ(S/N)比が低下するということを示唆する結果が得られた。 神経応答におけるS/N比の低下は、知覚における視覚刺激検出能の低下の原因となるため、本研究は内因性のノルアドレナリンが、β受容体を介して神経応答のS/N比を向上させることで、視覚刺激検出能を向上させていることを示唆している。
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