研究実績の概要 |
物質の磁気特性や誘電特性を光によって制御することは様々な分野において精力的に研究が行われている。本研究は、ペンタシアノニトロシル金属錯体を構築素子として用いた分極構造を有する物質にいて光による物性の変化の観測を目的として行った。ジスプロシウムとペンタシアノニトロシル鉄を組み合わせたシアノ架橋型錯体[Dy(phen)2(NO3)(H2O)][Fe(CN)5(NO)]・3H2O (phen=1,10-フェナントロリン)を合成し、物性の評価を行った。単結晶構造解析の結果、本錯体はシアノ基によってジスプロシウムと鉄が交互に架橋された一次元鎖状構造を形成し、中心対称性を持たない結晶構造を有することが明らかになった。フェムト秒パルスレーザーを照射したところ、中心対称性を持たない結晶構造に由来する第二高調波発生が観測された。低温において青色の光を照射すると第二高調波の強度が大きくなり、赤色の光を照射すると第二高調波の強度が小さくなった。光照射時の構造の変化を調べるために赤外吸収分光を測定したところ、青色の光を照射することにより窒素原子によって鉄イオンと配位していたニトロシル基が酸素原子で鉄と配位した状態に変化することが明らかになった。以上の結果から、光照射によるニトロシル基のフリップに由来して本錯体の非線形の分極が変化することにより第二高調波強度も変化したと示唆される。したがって、光照射によって分極構造を有するペンタシアノニトロシル錯体の非線形分極を変化させることに成功したと考えられる。
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