研究実績の概要 |
リン脂質分子は親水基と疎水基を持ち、水中に分散させると自己集合して二重膜が閉じ、シャボン玉のような球状ベシクルを形成する。本研究では、リン脂質膜ベシクルを端のない二次元固体とみなして,固体の融解時に液核の均一核生成に伴う過熱を初めて実験的に観測し、その過熱限界の起源を明らかにすることを目的として実験を行ってきた.しかし、昨年度までの研究により、添加物による膜の形状の安定化が難しいことがわかったので、添加物が膜の物性に与える影響について詳しく調べた。 添加物が膜の力学物性やダイナミクスに与える関係を調べるために、中性子スピンエコー(NSE)法を用いた。添加物として炭素数が8, 10, 12, 14のアルカンを用い、各力学パラメータが添加したアルカンの鎖長に対してどのように変化したかを、NSE結果、膜物理のモデル、統計力学モデルを用いて解析した。その結果、添加したアルカンの鎖長に依存して膜の厚みゆらぎと曲げ揺らぎをはじめとする膜物性の変化を明らかにした。また、アルカンの膜内分布が鎖長に依存して異なったため、2枚の単分子膜の滑りやすさに影響を与えることが示唆された。2枚の単分子膜の滑りやすさの鎖長依存性は、膜の力学パラメータの鎖長依存性と整合した。この成果は既に国際学術誌Physical Chemistry and Chemical Physics誌で発表され、掲載号の表紙となった。また同誌のHOT Articleとして3か月間オープンアクセスとなった。
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