平成30年度の研究により、Adam10ΔLyz2マウスでは、インフルエンザウイルス感染後の肺内でArg1高発現のCD11b+F4/80+細胞が増加しており、感染後の死亡率悪化に寄与していることが分かった。 本年度はまず、Arginase1阻害剤(nor-NOHA)を用いた感染実験を行った。Adam10ΔLyz2マウスならびに対照マウスをインフルエンザウイルス感染させ、同時にnor-NOHAの腹腔内投与を行ったところ、Adam10ΔLyz2マウスの感染後の死亡率が、nor-NOHAの投与によって改善した。この結果から、Adam10ΔLyz2マウスのインフルエンザウイルス感染後の死亡に、Arg1が関与している可能性が示唆された。 次に、ADAM10がどのような機序でCD11b+F4/80+細胞のArg1発現を制御しているかを解明することを目標とした。まずは、ADAM10によってシェディングされることが既に報告されている膜型蛋白質に注目し、研究を進めた。しかしながら、IL-6R、RAGE、Notchなど既知のADAM10の標的膜型蛋白質は、本実験系において重要な意義を見出せなかった。 次に、Adam10ΔLyz2マウスならびに対象マウスの骨髄を採取し、GM-CSFならびにIL-4による刺激下で培養した。4日後に細胞を回収し、F4/80陽性細胞をMACSにて抽出し、mRNA発現を検討した。その結果、Adam10ΔLyz2細胞においてArg1発現が亢進していた。さらに、培養後の細胞におけるGM-CSF受容体の発現をFACSで評価したところ、Adam10ΔLyz2マウス群において、GM-CSF受容体陽性細胞数が増えていることが分かった。この結果から、ADAM10が骨髄球系細胞のArg1発現を制御する経路において、GM-CSFが関与していることが示唆された。
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