連星中性子星合体を起源とする重力波は短時間ガンマ線バースト(short GRB)やこれに付随する軟X洗放射が同期すると考えられている。これらの電磁波突発天体の観測から重力波源の同定を目指すため、広視野X線撮像検出器の開発を行ってきた。本年度は検出器オンボードでのエネルギースペクトル生成機能を実装したことで、GRBの観測・解析に必要な基本的なデータ(これまでの天体画像、光度変動の情報含む)を取得するシステムを実現した。また、検出器の状態を監視する不感時間の計測機能も実装した。これらに加え、Microsemi社から有料ライセンスを購入し、検出器のフライトモデルに搭載された放射線耐性品のFPGAへプログラムをダウンロードする環境を整えた。さらに、フライトモデルの性能評価を実施した。宇宙からの背景X線事象の検出頻度に比べて回路ノイズによる偽検出が十分少なくなるエネルギー閾値を課したところ、X線の検出下限値4.0 keVが確認された。当初の目標であったエネルギー範囲2-20 keVからの影響を再計算したところ、重力波を伴う典型的なshort GRBを観測する場合には感度の劣化はほとんどないことが分かった。この結果から本検出器が電磁波対応天体の監視において有用であることが示される。 また、本研究では軟X線放射の起源の解明を目指したデータ解析も行った。これまで軟X線放射はそのスペクトルから非熱的放射が示唆されていたが、本解析にて明るい数例のイベントにおいて2温度の黒体放射モデルでもスペクトルを説明できる結果が得られた。ここで非熱的モデルを考えた場合は、軟X線放射はGRB周辺環境からのX線吸収を要する。一方で2温度モデルを仮定したときは吸収の影響をほとんど考えなくてよくなる。この結果は、軟X線放射のあとに続く残光現象から見積もった量と無矛盾である。
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