研究実績の概要 |
2009年にその秩序相(XV相)が初めて発見された氷VI相について、2018年に氷XV相以外に別の秩序相が存在する可能性が常圧回収した試料の熱測定から示唆された。氷VI相が二つの秩序相をもつならば、氷で初めての複数の秩序相をもつ無秩序相の発見であり、新しい氷の多様性の形態としてそのインパクトは計り知れない。 本研究では、氷VI相の秩序化の高圧下その場観測を誘電率、中性子回折実験で行い、相境界や新しい秩序相の結晶構造の同定を目指した。高圧下誘電率測定の結果から氷VI相は実際に二つの秩序相を有することを相境界の熱力学的な考察から明らかにし、新しい秩序相は氷XIX相と名付けた。低圧側にXV相、そして1.5 GPaを境に高圧側にXIX相が存在している。この実験で得られた相図を参考に、日本の中性子実験施設であるJ-PARC(Beamline: PLANET)において、高圧下粉末中性子回折実験を氷XIX相の安定圧力領域内で行った。その結果、中性子回折測定からも秩序化による結晶構造の対称性の低下に伴うnew peakの出現が明瞭に観測された。さらに、氷XIX相の結晶構造解析の結果、従来知られていた氷VI相、およびその既知の秩序相である氷XV相の単位胞よりも2倍の単位胞体積をもつような並進周期性を有していることが分かった。これは、氷XIX相が未知相である明らかな証拠である。水素原子配置に関しては、P-4, Pcc2という二つの空間群で表わされる構造モデルがもっとも有力であるという結果を得た。これらの空間群は、空間反転対称性を持たないという点で、既知の氷XV相の空間群(P-1)と異なる。さらに、Pcc2の構造モデルはpolarな空間群でいわゆる強誘電氷である。水素原子配置の決定には、より詳細な構造研究が必要だが、氷XIX相はその結晶構造に関しても極性という面で非常に興味深い。
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