細胞内の主要なタンパク質分解系であるユビキチン・プロテアソーム系の機能が低下すると、転写因子Nrf1の活性化により、代償的にプロテアソーム発現量が上昇する。この機構は、多発性骨髄腫の治療薬であるプロテアソーム活性阻害剤への耐性獲得の一因とも考えられており、分子機構の解明が求められていた。最近、所属研究室ではNrf1の活性化に必要なプロテアーゼとして、新規アスパラギン酸プロテアーゼDDI2を同定し、分子機構や生理的機能の解明を行っている。 これまでの研究から、DDI2はNrf1をER膜上で切断・活性化する因子であると考えられていたが、Nrf1の核局在にはDDI2によるプロセシングが不要であることを示唆する結果も得られていた。そこで、DDI2がNrf1活性化のどの段階に寄与するのか検討した。その結果、DDI2欠損細胞でもNrf1の核局在が認められたことから、DDI2はNrf1の核局在には必ずしも必要ではないことが明らかとなった。その一方で、DDI2ノックダウン細胞では、プロテアソーム上流領域へのNrf1の会合が減少したことから、DDI2によるNrf1のプロセシングは、Nrf1のプロテアソーム遺伝子発現制御領域への会合に必要であることが示唆された。 前年度の研究で、DDI2欠損マウスが致死であることが明らかとなった。このことから、DDI2が生理的条件下でのプロテアソーム遺伝子発現に寄与している可能性が考えられた。そこで、DDI2過剰発現によりプロテアソーム機能が亢進する可能性を考え、DDI2過剰発現マウスを作出した。DDI2過剰発現マウスでは脳や肝臓の組織抽出液におけるプロテアソームの活性亢進が認められた。このことから、DDI2は生理的なプロテアソーム遺伝子発現に寄与していることが明らかとなった。
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