研究実績の概要 |
最近申請者は糖尿病性腎症ポドサイトにおけるDNA修復因子KAT5の発現低下がDNAメチル化変化を介して病態に関与する可能性を報告した(Cell Rep. 2019)。本研究ではヒト尿中脱落細胞におけるKAT5発現、エピゲノム修飾因子の発現と高血圧(HT)、糖尿病(DM)との関連を検討した。 当科外来に生活習慣病治療のため通院中の患者75症例の尿中脱落細胞から既報に基づきDNAおよびmRNAを抽出した。そして、RT-PCR法により腎臓を構成する各細胞の形質マーカー(ポドサイト:Nephrin, 近位尿細管:AQP1, 集合管:AQP2, 尿路上皮細胞:KRT20)、およびDNAメチル化・脱メチル化酵素(DNMT1, 3A, 3BおよびTET1, 2, 3)、DNA修復因子KAT5の発現を評価した。また、我々が基礎研究報告において用いたlong-distance PCR法により、各形質遺伝子のプロモーター領域におけるDNA二本鎖切断(DSB)の程度を検討した。 その結果、DM群ではNephrin遺伝子のDSBが増加するとともに、我々の基礎研究報告と矛盾せず尿中KAT5/nephrinが有意に低下していた。また、HT群ではAQP1遺伝子のDSBが増加し、尿中DNMTs/AQP1 およびTETs/AQP1が上昇していた。更に、1年間のeGFR低下率と尿中DNMTs/AQP1は有意な正の相関を認め、多変量解析により年齢、eGFR、DM有無、微量アルブミン尿の程度で補正後も、尿中DNMTs/AQP1は1年間のeGFR低下率と有意に関連していることが示唆された(Hishikawa, et al. Sci Rep. 2020)。 今後これら尿中エピゲノム修飾因子発現の診断・腎予後予測マーカーとしての可能性について更なる検討が必要であると考えられた。
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