研究課題
特別研究員奨励費
慢性疼痛の患者の 50% 以上で認められる不安や抑うつ症状は、痛みの感受性増大・慢性化への関与が示唆されている。しかしながら、その詳細な機序は未だ不明な点が多い。本研究はストレスの反復暴露によって生じる痛みの慢性化機序の解明を目的に、長鎖脂肪酸受容体 GPR40/FFAR1 に着目し検討を行った。先行研究において、社会的敗北ストレスを反復暴露したマウスでは機械的痛覚過敏が持続することを示している。GPR40/FFAR1 をストレス暴露期間に薬理学的に阻害することによって、ストレス暴露単独群と比較して痛みはさらに持続することを明らかとした。さらに、痛みおよび情動の制御に関与する脳には GPR40/FFAR1 の内因性リガンドとして知られる長鎖脂肪酸が豊富に分布していることから脂質イメージングを用いた画像解析を行い、ストレス暴露後に脳内の脂質動態が変動することを明らかとした。特に、 n-3 系脂肪酸の一種である docosahexaenoic acid (DHA) を欠乏させたマウスを用いた検討では、ストレス暴露に伴って生じる DHA の減少は、ストレス暴露後の不安や抑うつ様行動の増悪、機械的痛覚閾値の低下ならびに持続を惹起することが示された。また DHA の投与によって生体内の DHA を増加させることによって慢性化を抑制できること、この機序には GPR40/FFAR1 シグナルが関与している可能性をつきとめた。以上の検討から、ストレスにともなって生じる脳内脂質、特に DHA の動態変化が、標的受容体である GPR40/FFAR1 シグナル機構の機能低下を介して慢性疼痛形成に関与する可能性が示された。本研究は、脳内 GPR40/FFAR1 が新規慢性疼痛治療薬の候補受容体であることを同定し、本研究分野発展への貢献が期待できる。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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