研究課題
特別研究員奨励費
アコヤガイの貝殻は稜柱層と呼ばれる柱状炭酸カルシウム結晶が寄り集まったハチの巣状の微細構造を持つ。この柱状単結晶内には有機基質が局在しており、その有機基質によって微小な結晶欠陥が作られている。有機基質を含まない単結晶は特定の結晶面で割れやすいが、柱状単結晶では欠陥がひび割れを防ぐため割れにくく強度が強い。これまでの研究では結晶内有機基質から多糖のキチンとキチン分解酵素を同定した。またキチン分解酵素を作用させたキチンゲル内で炭酸カルシウムの結晶化を行い、キチン分解酵素によるキチンの分解度合いが大きいほど、キチンがより多くの欠陥を誘導することを示した。本年度では、キチンゲル内で合成した炭酸カルシウム結晶をクライオSEMを用いて観察を行い、キチン分解酵素により分解されて細くなったキチンが炭酸カルシウムと相互作用していることを示した。またアコヤガイ生体にキチン分解酵素阻害剤を注射しながら飼育した個体の稜柱層をSEMで観察すると、微細構造が乱れた構造が見られ、さらに結晶内部をTEMで観察すると太くなったキチンが見られた。従って正常な稜柱層形成にはキチン分解酵素が重要であることが示唆された。またタイラギはアコヤガイと同様に稜柱層を持つ二枚貝であるが、タイラギの稜柱層結晶には欠陥が含まれていない。その結晶内には、アコヤガイと異なり低密度で分散している有機基質(キチンであることが判明)が見られる。キチンの様態の違いが結晶欠陥の有無に関わっていると考えられる。タイラギにはキチン分解活性が検出されず、さらにタイラギのキチン合成酵素の発現量がアコヤガイより低かったことから、タイラギはキチン分泌量を抑えることでキチンの様態を調節していることが示唆された。以上より、同じ稜柱層でも種独自の形成機構が存在することが初めて示され、軟体動物の石灰化機構の更なる解明に繋がる成果を得ることができたと考えられる。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Journal of Structural Biology
巻: 204(2) 号: 2 ページ: 240-249
10.1016/j.jsb.2018.08.014
Frontiers in Marine Science
巻: 5 ページ: 373-373
10.3389/fmars.2018.00373