本研究は、連歌作品に付された注釈について分析し、中世日本における文学的教育・学習の様相を明らかにすることを目的とした。そのために、注釈の教育的機能について、注釈が作られる環境やその目的、作者や想定読者、時代的・社会的背景などから分析し、本年度は以下の三点を明らかにし得た。 まず、連歌師宗牧の旅先での活動に焦点をあて、連歌師の旅先で詠まれた和歌に、人々との交流や感動を共有する機能を持つものが多く見られることを明らかにした。その成果は、論文化には至っていないが「連歌師と和歌 ―『東国紀行』を手がかりとして―」(口頭発表、和歌文学会大会)で発表した。 次に、連歌においては、旅の中という特殊な環境でも新たな作品が作られ、それに並行して講釈や注釈の執筆も行われているということを、宗牧の紀行『東国紀行』の記述と、その旅の中で成立した作品・注釈によって示した。上記の口頭発表で取り上げた『東国紀行』の旅の中で、宗牧の三種類の独吟百韻とその注釈が成立しており、連歌師の旅中の人々との交流として関連付けることができた。その成果としては、「連歌作品と古注釈の成立について―天文年間の宗牧注を起点として―」(『明星大学人文学部日本文化学科紀要』28号)が挙げられる。 最後に、宗牧の句集『孤竹』の注釈から、宗牧の連歌の実際的な指導について確認することができた。その成果は「『孤竹』から見る宗牧の連歌指導」(『国文』投稿・掲載予定)として示した。 連歌の文化的側面や社会的側面についての研究は蓄積があるが、連歌師の連歌・注釈・和歌を介した旅中の人々との交流や、注釈による連歌の指導について分析を加えた点は有意義であったと考える。
|