研究課題
特別研究員奨励費
本研究では、リチウムイオン電池の安全性向上・低コスト化を可能にするアプローチとして有望な水系電解液を対象とした。中でも、リチウム塩と水をモル比1:2の高濃度で溶解した、ハイドレートメルト電解液は、従来の水系電解液と比較して電位変動に対して非常に安定であり、高性能な水系二次電池開発への応用が期待されている。そこで、その高い電気化学的安定性の起源を解明するため、第一原理分子動力学計算を用いた理論的解析を実施した。得られた溶液構造に対して水素結合解析を行ったところ、バルク水中では、水素結合数が1分子当たり3.58に対し、ハイドレートメルト電解液中では0.52と大幅に減少しており、代わりに、Liカチオンとのイオン結合とアニオンとの水素結合へ置き換わっていることが分かった。さらに、電子構造解析により、水分子の最低非占有軌道(LUMO)は、アニオンよりも高い準位であり、アニオンの還元分解が優先的に生じることが示唆された。この起源としては、イオンに囲まれて孤立した水分子の割合の増加したことと、高濃度化によりカチオンとアニオンの配位が増加したこと、の2つの寄与が考えられる。従って、ハイドレートメルト電解液では、特異的構造の形成に伴う電子状態の変調により、高い電気化学的安定性が発現するものと考えられる。さらに、本研究室で新たに開発された、Na及びK塩のハイドレートメルト電解液についても、半経験的分子動力学計算を用いた大規模(3000原子程度)溶液構造解析を行い、水同士の水素結合ネットワークが寸断され、希薄溶液とは異なる溶液構造を持つことを明らかにした。以上の結果から、高濃水系電解液であるハイドレートメルト電解液では、高濃度化に伴う溶液構造、特に水同士の水素結合ネットワーク構造の大幅な変調が電気化学的安定性への鍵であることが示唆された。
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