研究実績の概要 |
心の理論(他者の行動から、その他者の心的状態を推測する能力)の文化比較的視点による研究では、欧米の子どもに比べ、特に、日本の子どもの信念課題や誤信念課題の通過年齢が遅いことが示されてきている(e.g., 東山, 2007; Naito & Koyama, 2006; Wellman et al., 2001)。本研究では、欧米の先行研究(Bowman et al., 2012; Liu et al., 2009)にならい、信念課題と欲求課題を遂行中の脳波を測定し、日本の子どもの信念課題の通過年齢が遅いことの一つの要因となる文化的差異が見られるか検討することを目的としている。また、心の理論課題を通過した後の日本の成人では、子どもと比較し、心の理論課題遂行中の脳波においても発達的な差異が認められるのか、また、欧米の成人を対象とした先行研究の結果(Liu et al., 2009)と比較した場合には、文化的差異が認められるのかについても検討する。 2019年度は、4-6歳の幼児19名と大学生16名を対象に実験を行った。信念条件、欲求条件、統制条件の3つの条件から構成される心の理論課題遂行中の脳波を測定した。それぞれの条件ごとのERP(事象関連電位)の総加算平均波形を算出し、後頭部の電極の約350ミリにピークをもつ陽性電位を特定し、その平均振幅を従属変数とした。条件間で平均振幅の相違を検討したところ、信念条件と欲求条件の間では、大学生では有意な差が認められたが、幼児では有意な差が認められなかった。心の理論課題遂行中の脳波において、大学生と幼児で発達的な差異が示唆されたといえよう。現在、欧米の先行研究の結果と比較するため、より詳細な分析を進めている。
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