研究課題
特別研究員奨励費
肝細胞癌の多くはウイルス感染やNASHといった慢性炎症を基礎として発生する。この炎症性発癌過程におけるゲノム異常については多数の報告があるが、DNAメチル化などのエピゲノム制御の機序については不明な点が多い。新規DNAメチル化酵素の中でも、Dnmt3bは活発に転写される遺伝子に特異的に作用することが近年報告され、その異常が発癌に関与する可能性を示唆している。本研究では、Dnmt3bの異常がDNAメチル化変化を介して肝発癌過程において果たす役割を明らかにすることを目的とする。肝細胞特異的Dnmt3bノックアウト(KO)マウスを作成し、チオアセトアミド(TAA)投与により慢性肝炎を惹起してその表現型を解析した。また、TAA投与前またはTAA4週投与後のコントロールマウス及びDnmt3bKOマウスの非腫瘍肝組織より抽出したRNAを用いてトランスクリプトーム解析を行い、遺伝子発現プロファイルを比較した。TAA4週投与後にはDnmt3bKOマウスでより強い肝炎が見られた。TAA30週投与後にはDnmt3bKOマウスでより強い肝線維化が見られ、コントロールマウスと比較して有意に多くの肝癌が発生した。非腫瘍肝組織より抽出したRNAを用いたトランスクリプトーム解析では、TAA非投与・4週投与のいずれの条件下でも、Dnmt3bKOマウス肝において酸化的リン酸化関連遺伝子群の発現低下を認めた。また、Dnmt3bKOマウスの非癌部肝組織では、酸化ストレスマーカーである8-OHdGが高発現していることが確認された。これらの結果は、Dnmt3bが欠損するとミトコンドリアの機能低下から酸化ストレスの蓄積をきたし、炎症の増悪及び発癌の促進を生じる可能性を示唆する。以上より、Dnmt3bは酸化的リン酸化の恒常性維持を介し、炎症性肝発癌において防御的に機能している可能性が考えられる。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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