一般的に「ドローン」として知られるマルチロータは,通常推力を上向きにしか出力できないことから,機体の傾きを伴わない水平方向への加速や押し付け力の印加が原理的に不可能であり,物体との接触を伴う空中作業や位置・姿勢の高精度な制御が求められる実用例において問題がある.これを解決する方策として,推力を生み出すロータを傾けて取り付けた全駆動マルチロータという新しいタイプの構造が本研究の対象である.全駆動マルチロータは,機体の力を出力しやすい方向とその程度がロータの配置や傾き角などの構造パラメータによって変化する.このことに着目し,用途に基づく制御目標を評価関数として,構造パラメータと制御則を同時に最適化する手法に関して研究を実施した. 本年度は,前年度に提案した解析的手法の問題点を解決するため,より一般のシステムや目的関数への適用を目指し,構造・制御の同時最適化の数値的解法について研究を行った.まず,剛体運動の数値的な最適制御手法を考えるため,特殊ユークリッド群SE(3)上のシステムの種々の離散化手法を比較・検討した.本研究では,SE(3)のCayley mapに基づく幾何学的積分器を利用し,剛体運動の厳密な離散化手法を提案した.この離散化手法を応用することで,状態の長時間の時間発展や目的関数の勾配を少ない計算量で求められることを示し,剛体運動の非線形最適制御問題の高速解法を提案した.この高速解法により,計算資源の限られる小型マルチロータのフライトコントローラ上に,剛体運動の非線形モデル予測制御手法を実装することが可能となった.さらに,これらの数値的最適制御の価値関数最小化に基づいた,マルチロータの機体の構造パラメータを最適に設計する手法についても研究を行った.
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