研究実績の概要 |
新規複合アニオン化合物の探索を行った結果、新たに二つの新規層状オキシカルコゲナイドの合成に成功した。新規物質探索の戦略としては、高圧合成法を用いながら、層状構造の各構成層の圧縮率の違いを利用するという、独自の切り口で研究を行った。本合成戦略は、当研究者によって世界で初めて提唱された(Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 756-759)。 得られた新規物質は、酸化物層とカルコゲナイド層からなる。粉末放射光X線回折測定データをRietveld解析した結果、酸化物層は、カルコゲナイド層からの巨大なtensile strain下におかれていることが分かった。これは異常に長い結合長や、Bond Valence Sumの値等から裏付けられた。特に磁性について、既報の類似物質と比較すると、異常に小さな磁気モーメントの値をとり、磁気転移温度も低いことが分かった。これは、上述の合成戦略によって、酸化物層がtensile strain下におかれるという、特異な結晶構造に起因している。 従来、薄膜の分野では、tensile (compressive) strainをコントロールすることで、誘電性や磁性といった物性をコントロールする研究が行われてきた。本研究では、薄膜を使わずとも、上述の合成戦略を用いることで、新規物質の探索のみならず、物性を制御できる可能性を示した。複合アニオン配位を有する層状物質では、構成層の圧縮率が大きく異なることが考えられるため、本合成手法の応用範囲は広いと考えられ、さらなる新規物質・物性の開拓に繋がると期待できる。
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