哺乳類冬眠動物が有する低体温耐性の機構を明らかにするために、冬眠動物シリアンハムスター(以下、ハムスター)をモデルとした。初代培養肝細胞の低温ストレス耐性を評価する過程で、ハムスターに与える餌によって、細胞の低温耐性が劇的に変化することを見出した。餌Aを与えたハムスター(ハムスターA)の肝細胞は1週間弱の低温培養を行ってもほとんど細胞死を示さなかったのに対し、餌Bを与えたハムスター(ハムスターB)では、2日以内の低温培養でほとんどの細胞が死滅した。さらに、ハムスターBではミトコンドリアでのROS産生および過酸化脂質の蓄積が認められたのに対し、ハムスターAではほとんど認められなかった。一方で、マウス肝細胞では、餌Aを与えた場合も、低温細胞死と低温による脂質酸化のいずれも抑制されなかった。次に餌Aの成分のうち、ハムスター肝細胞の低温耐性に寄与するものの同定を目指した。餌Aには、脂溶性の抗酸化物質であるビタミンEが餌Bの約5倍多く含まれている。そこで、餌Bを与えているハムスターに、ビタミンE同族体の1つであるα-Tocopherol (αT)を2週間経口投与したところ、肝細胞の低温耐性が増強した。この結果は、ハムスター肝細胞の低温耐性には、食餌から十分量のαTを摂取することが必要であることを示す。食餌由来のαTがどのように肝細胞の低温耐性に寄与するか調べるために、肝細胞中のαT量を測定したところ、αTを投与したハムスターBでは、溶媒対照群と比較して、αT量が有意に増加した。興味深いことに、餌Aを与えているハムスターは、同じ餌を与えたマウスより約10倍多いαT量を保持していた。この結果は、ハムスターは、マウスより食餌由来のαTを肝細胞に多く蓄えることが可能であり、このことが種間の低温耐性の差に寄与する可能性を示唆する。以上の結果を国際誌で発表するため、論文投稿準備中である。
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