研究実績の概要 |
今年度は正標数における交代多重ゼータ値の類似が満たす基本的性質について, 前年度に得られた結果を論文にまとめるにあたって検証および発展を行なった. 正標数の数論において有限体上の多項式環が整数環の類似として与えられており, また多重ゼータ値の類似もCarlitz-Thakur多重ゼータ値(MZVと記す)という無限級数が与えられている. このMZVを有限体上の多項式環における乗法元で捻ることで正標数の交代多重ゼータ値(AMZVと記す)を構成し, それらが以下の性質を満たすことを証明した. 1.AMZVの非自明性, 2.AMZVの積和公式, 3.AMZVの周期による解釈, 4.AMZVの線形独立性 そして性質2. についていくつかの指数の場合で計算を行いより明示的な式表示を与えている. また性質4.についても, AMZVは有限体上の一変数関数体(kと記す)において超越的であることが系として導かれることを示した. 一方で国立清華大学の学生とMZVの線型独立性についての共同研究を行なっている. 最近, 指数の重さが互いに等しいMZVたちがk上で線型独立となる条件について一定の結果を得ており, これにより例えば指数が(6), (1,2,2,1), そして(2,2,2)である三つのMZVたちはk上線型独立であることが従う. 現在上記の結果について共著論文を作成中である. この条件がどこまで弱められるかまたAMZVにも応用可能かといった一般化に関して, さらなる共同研究に同学生と従事中である. また名古屋大学において2019年12月から2019年1月にかけて学部生および修士向けにMZVに関する4回にわたる講義を行ない, さらに名古屋大学の学生の協力の下でレクチャーノートを作成した.
|