研究実績の概要 |
符号数 (p,q) の非退化対称双線形テンソルを有する可微分多様体を擬リーマン多様体と呼ぶ。特に負の符号数 qが 0 の時リーマン多様体、 1 の時ローレンツ多様体と呼ばれる。リーマン多様体の場合と同様に擬リーマン多様体にはラプラシアンと呼ばれる二階の微分作用素が定義される。リーマン多様体のラプラシアンは楕円型微分作用素であるが、ローレンツ多様体のラプラシアンは楕円型ではなく双曲型微分作用素であり、その固有値分布の定性的性質は多様体がコンパクトである場合、一般論としてはほとんど知られていない。小林俊行氏は擬リーマン局所半単純対称空間において、ラプラシアンを含む「内在的な」微分作用素を用いた大域解析の研究を創始し、 同氏はFanny Kassel 氏との共同研究でいくつかの基本的結果を与えた。例えばある特別な擬リーマン局所半単純対称空間に対してラプラシアンの安定固有値を無限個発見した。 擬リーマン局所半単純対称空間の中でも、断面曲率が -1 の定曲率ローレンツ多様体は反ド・ジッター多様体と呼ばれる。特に 3 次元の場合、豊富な大域構造が知られている。3 次元の反ド・ジッター多様体の新たな大域的性質について得られた結果(発表論文1,2)を博士論文としてまとめた。 発表論文1では、4つの実数列からリー群 SO(2,2) の無限生成の部分群を構成し、その反ド・ジッター空間SO(2,2)/SO(2,1) への作用の固有不連続性・強不連続性の判定法を各数列の漸近挙動を用いて与えた。さらにその一つの帰結として、数え上げの増大度が任意に大きくなる様な不連続群を構成した。 発表論文2ではコンパクト反ド・ジッター多様体のラプラシアンの離散スペクトラムの重複度について考察した。自然数 m が大きくなればなるほど、固有値として 4m(m-1) を持つ固有関数が無限に多く構成でき、さらにその構成は反ド・ジッター構造の変形に関して安定的である事を証明した。
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