研究実績の概要 |
最終年度は研究活動の制限等により当初の想定通りには進展しなかったが、その中で期待できる研究成果が得られた。脂肪酸結合タンパク質 3 (FABP3) はマウス前帯状皮質において GABA 神経に高発現し、FABP3 欠損マウスでは前帯状皮質における神経活動異常と情動行動異常を呈する (Yamamoto et al., J Neurosci., 2018)。当該研究員は、FABP3 がマウス内側中隔野においても GABA 神経に高発現することを見出した (Matsuo et al., Int. J. Mol. Sci., 2021)。内側中隔野 GABA 神経は海馬の神経活動や記憶学習機能を制御する領域のひとつであることから、本研究成果により情動行動だけではなく記憶学習機能においても FABP3 が機能を果たしている可能性がある。また、今年度は FABP3 欠損マウス脳の網羅的な遺伝子発現解析を介して、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の発症にかかわる分子機構の探索を予定していたが、これまで本解析を実施してきた学外拠点への移動が制限され実施することができなかった。その代替として、昨年度まで予備検討として解析していた他の神経精神疾患モデルにおける遺伝子発現解析を進め、情動行動や学習に関わるいくつかの遺伝子を同定した。本研究成果は現在、国際科学雑誌へ投稿準備中である。FABP3 欠損マウスでは PTSD 様症状のみならず、情動行動異常や社会性行動異常など、種々の神経精神疾患様の行動異常が見られる。したがって、本解析により同定した遺伝子群が FABP3 欠損マウスにおいても変動しているか解析することで、脳高次機能を制御する分子機構において、FABP3 がどのように機能を果たしているか解明することを期待できる。
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