研究課題
特別研究員奨励費
令和2年度は主にスピンパイエル物質のトリプロンスピン流に関しての研究を行った。反強磁性的な交換相互作用を持つスピン1/2の一次元鎖が低温で格子変形を起こし、ボンド交替の鎖構造が実現される。転移後のスピン系の基底状態は最近接のスピンがS=0の一重項ダイマーを組む相で、基底状態からのスピン励起はギャップを持つスピン1のトリプロン励起である。本研究はスピンパイエル転移を持つCuGeO3(CGO)を用いて縦型スピンゼーベック効果によるトリプロンスピン流の観測を行った。スピン鎖と垂直の(001)面に常磁性金属Pt薄膜を成膜した後、磁場を面内に印加することでスピンゼーベック効果の測定を行った。その結果、CGO/Pt試料におけるスピンゼーベック由来の電圧信号がスピンパイエル相のみで観測された。また、以下の対照実験も行った:1.従来の磁性体のマグノンスピン流の実験をCGOと同じセットアップで行った。マグノンスピン流とトリプロンスピン流による信号が逆符号であることを確認できた。2.非磁性不純物のZnを1%と3%を含んだCGOを作製し、スピンゼーベックの対照実験を行った。Zn-CGOが純CGOよりも大きいな磁化を持つにも関わらず、純CGOサンプルと比べて信号が強く抑制された。この実験によって、観測された信号がその他のトリビアルのメカニズムに由来することを排除できる。3.観測された信号の結晶軸依存性も調べた。熱流(したがってトリプロンの駆動方向)をスピン鎖と垂直に印加する場合、信号の大きな(~1/20)抑制を観測した。CGOの一次元性が強く、鎖間を跨ぐ輸送が鎖を沿う輸送と比べると著しく弱いと考えられる。実験の他に緩和時間近似のボルツマン方程式を用いて、トリプロンスピンゼーベック効果を理論的に計算し、実験で観測された信号の磁場依存性を定性的に再現できた。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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