研究実績の概要 |
魚類において繰り返されてきた海から淡水域への進出は, 種や生活史の多様化を引き起こしてきた. 海と川を行き来する通し回遊性は, 海水性と淡水性の中間型として淡水進出の途上でしばしば出現するとされ, この生活史や生理特性の解明は淡水進出プロセスへの理解を深める上で重要である.
海を起源とするハゼ科ウキゴリ属は, 8種の海水・汽水種に加え, 少なくともそれぞれ3種の通し回遊種と淡水種を含み, 海水魚から通し回遊魚, さらには淡水魚に至るまでの生活史進化プロセスを研究する上で好適な分類群である. 互いに近縁な通し回遊種であるウキゴリ, シマウキゴリ, スミウキゴリは, 基本的に淡水域で孵化した直後に海へ降り, 稚魚期に川へ戻る両側回遊型である. 一方, これら3種のうちウキゴリのみに, 一生を淡水域で過ごす陸封集団が多数認められる. また, 淡水湖である琵琶湖には, ウキゴリの最近縁種で淡水性のイサザが生息し, 両種の共通祖先の陸封が淡水性の進化のきっかけとなったことが示唆されている. このように, 陸封は淡水性が派生する上での重要な生態学的機会となりうるため, 陸封を可能にする生理形質の獲得は進化的に重要なイベントであるといえる. しかし, 陸封に際してどのような生理機能を獲得する必要があるかはほとんど分かっていない.
本研究では, ウキゴリ属において通し回遊種の陸封化には仔魚の淡水順応能力が鍵を握ると予測し, この検証を行なっている. まず, 陸封化が起こるウキゴリと, 陸封集団の認められないシマウキゴリ, スミウキゴリの間で仔魚の淡水順応能力を比較する生理実験を行なった. さらに, RNA-Seq解析により, この能力の違いをもたらす生理基盤の特定を行った. また, 耳石に蓄積された元素を分析することで, 上記実験に用いた各種の集団の回遊パターンを明らかにした.
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