研究実績の概要 |
本研究は,がん部位の診断や生体加熱の評価に有用な人体組織の電気特性(導電率・誘電率)分布をMRI画像から再構成するものである.本年度は,大きな目標であった三次元対象に有効な再構成手法の構築を行ったほか,前年度に行った電磁気特性(導電率・磁化率)の同時再構成を進展させ,さらに新たに機械特性(弾性率・粘性率)の再構成へと研究対象を広げた。 電気特性再構成のモダリティであるEPTに対しては,これまで課題であった二次元近似を用いない手法としてHelmholtz分解に基づく積分方程式を導出した。大域的な積分表現式を基礎としているため計測ノイズに対する頑健性も有する。脳の解剖モデルを用いた数値シミュレーションおよびファントム実験にて,従来手法と比較して高精度で安定的な再構成が可能であることが確かめられた。以上の成果は英文雑誌2本(PIER C, PIER M)に採録済みである。 電気特性のうち導電率のみを再構成するモダリティはQCMと呼ばれる。QCMに対しても同様にHelmholtz分解に基づいて導電率に対する積分方程式を導出し,新たな三次元再構成手法を提案した。前年度に米国コーネル大学で取得したヒトのin vivo脳データに対して適用しその有効性を確認した。以上の成果を国際会議(ISMRM)にて口頭発表し受賞しており,現在論文誌への投稿を進めている。 機械特性画像化のモダリティであるMREもEPTと共通の定式化が可能であることを見出し,Helmholtz分解に基づく大局的・直接的な三次元再構成手法を導出した。有効性を数値シミュレーションにて検証済みであり,今後ファントム実験データへの適用を予定している。 以上を総合すると,本研究ではMRIを用いて物性値の定量画像を再構成する新たなモダリティ群に対して,統一的な数理的枠組みを提示し,電磁気特性や機械特性の高精度で安定的な再構成を実現した。
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