研究実績の概要 |
本研究では自閉スペクトラム症(ASD)が示す多様な特性を規定する感覚処理特性を明らかにすべく,ASD者を特性の個人差によって分類し,感覚処理特性との関連を検討した。 令和2年度は令和元年度に引き続き、ASD群を各々の特性から分類した。83名のASD者を対象に、社会性の困難さやこだわり行動といった中核的なASDの症状と感覚過敏性・鈍麻性の問題について、対人応答性尺度および感覚プロファイル短縮版によって測定し、その得点の組み合わせからサブグループに分類した。その結果、5つのサブグループが作成された。先行研究では中核症状と感覚過敏性・鈍麻性の重症度が一致することが観察されてきたが、本研究では重症度の一致しないグループを新たに見出した。 また感覚過敏性・鈍麻性の背景にある感覚処理特性として、時間情報処理との関係性を検討した。我々は感覚過敏性の強さと高い時間処理精度が関係することを報告したが(Ide, Yaguchi et al., 2018)、本研究ではこの知見の頑強性を検証した。ASD者16名、定型発達者15人名を対象に、左手の人差し指に与えた振動刺激の検出課題を行った。本研究では提示時間を操作し(50から1000 ms)、検出感度を測定した。感覚過敏性の程度を測定できる青年・成人感覚プロファイルの下位尺度と検出感度との間の有意な相関はASD群、定型発達群ともに見られなかった。一方で、同一実験参加者において、時間処理精度の測定を行なった。2振動刺激間の時間間隔を操作し(10から160 ms)、より短い時間間隔を検出できるほど時間処理精度が高いことを表すが、ASD群では高い時間処理精度と強い感覚過敏性との関係性が再現された。このことから、高い時間処理能力を持っているASD群は感覚過敏性を示すものの、時間側面を操作しても刺激の検出感度と感覚過敏性は関連しない可能性が新たに示唆された。
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