研究実績の概要 |
分子性強誘電体の一種であり多軸性の自発分極を示す柔粘性/強誘電性結晶[AH][ReO4]に着目し、薄膜における強誘電ドメインの観察を行った。ドメイン観察においては、昨年度開発した強誘電ドメイン可視化手法である複屈折強誘電体電界変調イメージング(複屈折FFMI)法を適用した。また、圧電応答力顕微鏡(PFM)やX線回折法を組み合わせることにより、ドメイン構造と結晶方位の関係を解析した。その結果、結晶の対称性から予想される通り、自発分極が互いに71°, 109°, 180°の相対角度で接する3種類のドメイン壁が存在することを明らかにした。これはペロブスカイト型など無機強誘電体と同様の傾向である。一方、無機強誘電体ではほとんど見られない、71°, 109°, 180°ドメイン壁が一点に集まる部分が複数ヶ所で観測された。[AH][ReO4]は比較的立方晶に近い構造をもつことに加え、柔軟であることから、ドメイン壁における弾性エネルギーが小さくこのような構造が安定に存在すると考えられる。 また、水素結合型有機強誘電体の一種であるる2-メチルベンゾイミダゾール(MBI)をゲート絶縁層として用いた強誘電体ゲートトランジスタ(FeFET)の試作を行った。MBIは熱や溶媒で損傷しやすくこれまで積層化が困難であったが、近年開発された電極転写手法を用いることによりFeFETの構築に成功した。また、作製した素子において低電圧の不揮発メモリ動作を観測することに成功した。水素結合型有機強誘電体を用いた低電圧駆動デバイスが実現可能であることを示す結果であり、今後の材料開発および薄膜の特性制御を通してさらなるデバイス特性の向上が期待される。
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