研究課題
特別研究員奨励費
私はこれまでにハロゲン化イミダゾリウム塩を酸触媒として用いた反応開発に取り組んで来た。独自に開発したフェナントレン骨格を持つアゾリウム骨格が高極性官能基の影響を大きく受けることなく酸触媒として機能することを見出してきたが、その電子不足な骨格が一電子酸化剤として働く可能性があると考え還元剤を検討を開始した。ヒドロキノンを用いた際に2位置換シクロヘキサノンの酸化的な炭素炭素結合開裂反応が良好に進行することを見出した。サイクリックボルタモグラムを用いた電気的な性質(酸化還元電位)を測定したところ、アゾリウム塩のわずかな構造的特徴が反応性に大きな差を生じることと、その反応性と電気的な性質(還元電位)の間に非常に良い相関関係がある事を見出した。つまり反応が進行する触媒のほうが反応が進行しない触媒に比べて還元電位が大きいことが見出され、本触媒系の活性化機構に酸化還元反応が大きく寄与していることが示唆された。これは本触媒系が単なる酸触媒では説明し得ない反応機構を持つ触媒系であることを示す点で価値が高い観測結果である。次に触媒間の相互作用について計算化学を用いて検討したところ、アゾリウム塩の対アニオンがヒドロキノンのフェノール系水酸基とも同時に水素結合を形成した上で両触媒の主骨格が分散力を用いて相互作用している様式が見て取れた。これはアゾリウム塩を塩とすることで電子不足さを向上させるとともにヒドロキノンをアゾリウム塩の近傍に引き付ける機能を合わせもつことを示唆する結果であり、対アニオンに機能を持たせることに成功したといえる。本触媒系でしか進行しない反応の探索には残念ながら至らなかったが、これまでは光照射やラジカル開始剤、金属触媒が必要とされていた反応を有機触媒のみを用いた常温、非光照射条件下で進行させたことは大きな前進であり今後の有機触媒化学のさらなる発展に寄与する成果であると考えている。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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