今年度の研究では、ミンコフスキー時空から宇宙が膨張する初期宇宙モデル(ジェネシスモデル)において生成される宇宙論的揺らぎの解析を行った。まず、昨年度に引き続き、strong couplingを回避するようなモデル空間の探査を行った。簡単のため、ジェネシスモデルの中でも、曲率揺らぎと原始重力波の伝播速度が時間に依存しない場合に限定して議論を行った。その結果、strong couplingを回避し、かつ揺らぎのパワースペクトルに関して、既存の観測結果(曲率揺らぎのスケール不変性)と整合的な予言を与え得るモデルでは、曲率揺らぎ及び原始重力波の長波長モードの振幅が時間とともに成長することを明らかにした。次に、曲率揺らぎの非ガウス性の波数依存性と大きさの評価を行った。まずジェネシスモデルでは、Squeezed limit(異なる3つの波数のうち、1つが他の2つに比べて十分小さいという極限)とEquilateral limit(3つの波数の大きさが同程度であるという極限)でピークを持つ項を予言することを明らかにした。またそれぞれの極限でピークを持つ項に関する非線形パラメータ(非ガウス性の大きさを特徴付けるパラメータ)を評価すると、非ガウス性は一般に非自明な波数依存性により増幅され、現在の観測から得られている非線形パラメータへの制限と整合的になり得るモデル空間は限定的であることを明らかにした。これらは、揺らぎの伝播速度が一定であることを要請して得られた結果であるため、今後はそれ以外のモデル空間における非ガウス性の解析も行う必要がある。
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