研究実績の概要 |
ウニ類は磯焼けなどの環境の大規模な変動に関わる旺盛な藻類食者として知られるが、日本をはじめ世界各所の沿岸域では、岩盤穿孔者としても卓越する。巣穴を占有するウニの種は、穿孔者(タワシウニ)と二次利用者(ナガウニ・ムラサキウニ)に分けられるが、穿孔ウニと二次利用ウニの巣穴は異なった住み込み共生生物相を育む(Yamamori and Kato 2017, Marine Biology)ので、巣穴占有種の変遷は磯の共生系に大きく影響すると考えられる。そこで私は、ウニの多数の穿孔が見られる和歌山県南紀白浜の岩礁域にて2年間、巣穴占有種のモニタリング調査を行った。 調査開始時点では、合計512の巣穴のうち96%の穴が3種いずれかのウニによって占拠されており、そのほとんどは成体または亜成体であった。これらのウニは本来藻食者であるため、巣穴が高密度に存在するこの潮溜りは磯焼け状態になっていた。こうした磯焼け環境においても、巣穴居住ウニは餌を流れ寄る海藻の破片に依存して生活することが可能であるため、保護的な環境である巣穴を失う危険性を伴うウニ類の巣穴間移動もほとんど見られなかった。 ところが、2018年2月に黒潮大蛇行による強い寒波が襲来し、ウニの大量死が起こった。ウニの個体数は巣穴総数の12%ほどになり、亜熱帯性のナガウニの高率の死亡に伴い、ウニの種組成も劇的に変化した。この時に巣穴の満席状態が解消され、寒波前はほとんどなかったウニの巣穴間移動が夜間に活発に起こるようになった。その後、潮下帯からの再加入によって、潮溜りのウニの個体数は徐々に回復していった。共生者であるハナザラの個体数は、宿主のウニの激減に伴って減少し、回復もウニの動態に伴った。このことは、宿主とともに生き残ったハナザラが、巣穴間移動を繰り返すウニに付き添って移動しつつ、個体群を維持していることを示唆している。
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