研究実績の概要 |
樹木細根は環境変動に敏感な器官であるため、土壌環境状態により細根形態は大きく変動する。土壌窒素環境、樹幹からの水平距離の違いにより細根形態、機能が変動することが考えられる。本研究の目的は、土壌窒素、樹幹からの水平距離の2つの要因に応じた細根系の次数形態特性の変動性を明らかにすることである。土壌窒素環境の異なる2調査地(幸田、三ヶ日)にて、樹幹からの水平距離(1, 3 m)の地点に生育する直径2 mm以下全体のヒノキ細根系を採取した。その後、直径2 mm以下全体の細根系から完全な4次根系を取り出し、形態特性(総根長、総乾重、SRL)を解析し、土壌窒素間、樹幹からの水平距離間における変動性を調べた。その結果、土壌窒素間では4次根系の総乾重、SRLにおいて有意差が認められた。土壌窒素が豊富な幸田では4次根系の総乾重が小さく、SRLが大きかった。また、4次根系の総根長、総乾重、SRLは樹幹からの水平距離間で有意差が認められた。1 m地点の4次根系の総根長は短く、総乾重が小さく、SRLが大きかった。これらのことから、土壌養分である窒素だけでなく、樹幹からの水平距離という空間的な位置の違いでも細根形態は変動し、養分獲得戦略が異なることが示唆された。 また、4次根系の総根長において直径階級0.1 mm刻みの総根長を算出し、土壌窒素、樹幹からの水平距離別で比較した。その結果、4次根系の直径階級別の総根長は0.3-0.4、0.5-0.6 mmの2つのピークが見られた。3 m地点、土壌窒素別における細根系の直径階級別の総根長は同様に2つのピークが見られたが、1 m地点における細根系の直径階級別の総根長のみ0.3-0.4 mmに1つのピークが見られた。このことから、樹幹からの水平距離が短い1 m地点の細根系は3 m地点の細根系よりも養水分吸収能力の高く、寿命が短い細い根であることが示唆された。
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