研究実績の概要 |
気候変動への対応が世界的な課題となるなか、「持続可能性」や「低酸素社会」といった概念が、多くの開発援助プロジェクトの正当性を支えている。これらの理念は、当該地域で「環境ジェントリフィケーション」を引き起こすなど、負の効果を持つこともある。本研究では、先進国からもたらされる低酸素技術や環境保全意識が、どのようにインフラ計画に盛り込まれ、いかなる翻訳と交渉が介在し、それが現地社会でどのように定着する/しないのかに注目した。 2019年度は、ラオスでの電気自動車普及計画のプロセスについての分析を進めるため、アクターネットワーク理論及び人類学者のM・ストラザーンの「ネットワークを切る」議論の有効性を検討し、日本文化人類学会の第53回研究大会及び、国際社会科学論学会(4S)研究大会で発表した。7月にはタイ・バンコクで“Atmospheres and Infrastructures: Exploring the ‘Social’ Above, Below, and Across”と題するワークショップ(チュラロンコーン大学)に参加した。大気という意味で上部に存在するAtmosphereと社会活動を支える下部に存在するInfrastructureは両者とも不可視でありながら人間の生に対して根本から作用するものである。これらのトピックをめぐり、タイ国内の研究者らとの活発な議論を行った。ワークショップ後は、ラオス北部のルアンナムター県に移動し、調査を行なった。同地には多くの少数民族が暮らし、エコツーリズムが盛んである一方、鉄道建設や中国との国境地帯の経済開発が目まぐるしく進んでいる。そこには、エコツーリズムやNGOの活動を通して欧米の環境アクティヴィズムにアクセスするルートが存在しており、ローカルな文脈とグローバルな言説空間との関係から生成する環境意識の動的な様相が明らかとなった。
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