最終年度の2023年は、新型コロナ感染症の世界的蔓延がようやく終息し、日本においても5月に感染法上の分類が引き下げられることで、国内旅行や海外渡航が以前のように可能となった。そのため、秋と冬にドイツで2回資料収集をすることができた。1回目はボーフム大学で、ハーバマスからの批判にロールズが応えて始まった「ハーバマスーロールズ論争」に関連する文献を中心的に収集した。現代を代表する哲学者間で行われた論争でありながら、そこまで注目されなかったこの論争のテーマは、ロールズが提唱する「理性の公的使用による和解」という構想がどこまで妥当性を持つかという問題であった。 また、2回目は、レーゲンスブルク大学で研究成果報告書作成に必要な文献の最終調査・確認を行った。文献確認のための図書館としてレーゲンスブルク大学を選んだ理由は、コロナ感染拡大にともなって導入された学外者利用制限を早めに撤廃し、学部図書館を含めて、学外者の自由な利用を認めていたからである。当初の予定では、蔵書の多いエアランゲン・ニュルンベルク大学でも文献確認作業を行う予定であったが、ドイツ鉄道のストライキにより実施できなかった。 レーゲンスブルク大学での資料収集後は、研究成果報告書の作成に集中した。報告書では、これまで学会等で発表したロールズ・ヘーゲル関係やロールズ・マルクス関係をめぐる論考に加えて、ヘーゲルの和解概念を解明したゲオルク・ラッソンの有名な論文やイェルク・シャウブの『和解としての正義――ジョン・ロールズの政治的リベラリズム』を詳細に検討し、「和解の政治哲学」という思想が、ヘーゲルからロールズに継承されていく経緯を解明した。
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