研究課題/領域番号 |
18K00003
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
宇佐美 公生 岩手大学, 教育学部, 嘱託教授 (30183750)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2018年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 理性主義的道徳理論 / 自然主義道徳理論 / 道徳の生理的基盤 / 実践理性 / 尊厳 / 形而上学 / 道徳感情 / 道徳の虚構性 / 自然主義的道徳理論 / 情動理論 / 理性主義 / 道徳教育 / 権利 / モラル・エンハンスメント / 自然主義 / 情動の生理的反応説 / 形而上学的価値概念 / 道徳性の形成 / 情動の構成主義 / 道徳心理学 / 正当化理論 / 理性と感情 / アダム・スミス / カント / 道徳的自然主義 / 進化論的倫理学 / 反実在論 / 実在論 / 形而上学的概念 / 道徳理論 / 感情 / 理性批判 |
研究実績の概要 |
本研究は、理性主義による道徳の基礎づけや、判断機能の説明に対して、自然主義の側から提示される様々な批判の意義を検討するとともに、道徳的規範や道徳判断に対して理性が果たす役割や意義を再検討し、道徳に関する理性主義と自然主義との新たな統合の可能性を提示することを目的としている。 これまで理性主義を批判する自然主義の道徳理論では、どのような面で自然的諸要素が道徳を支える機能を担っていると考えられるを、その主張を支える様々なデータを引き合いに説明されてきた。そして脳科学等の知見から、視床下部への刺激が攻撃性を喚起する反面、幼児期からすでに他者への親切への共感などの感情が備わっていることなどが確認されている。さらにそれが道徳能力の生理的基盤になるにしても、他方で後天的な学習と学習を支える社会の制度の整備が人々の道徳的感情の質の転換と道徳的行為の成熟に寄与してきた可能性の指摘が、人類史の研究で示されている。 本年度はそれらの研究の蓄積を踏まえて、現実の道徳においては、道徳性の形成を促す生理的基盤の上に、文化的・制度的規範性が上書きされ、それが感情的反応の質の転換をもたらすだけではなく、そうして形成される新たな情動そのものが新たなバイアスの元になり、またそうしたバイアスを避けるための理性の活用も、課題解決的な視点から工学的手法をモデルにした道具的活用にとどまる限り、むしろ混乱をもたらす危険性を伴うことを示した。そしてこうした課題を克服するために、改めて公共的な熟議の重要性を提唱する研究等も既にあるが、道徳的な成熟という課題から言えば、カントが形而上学的視点から語る実践的理念を参照して、1)理性が理性自身を批判するための基礎となる形而上学的理念が有限な人間には開かれてあること、2)そして理性批判への契機として、感情の働きが有限な人間にとり有用である可能性があることなどを構想した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体としては、当初予定していた自然主義的道徳理論を整理し、自然主義的道徳理論による理性主義的道徳理論に対する批判、とりわけその理論が自然的で感情的な反応に対する「後づけ」的な機能しか持たないという批判について、その意義を再検討し、他方で近代以降の理性主義的な道徳理論の諸概念の創出が、自然主義者が語る「感情的」反応の意義や布置を構成し、創り直す可能性を、情動に関する新しい研究を参考に明らかにしてきた。その上で、そうした理性主義的な道徳理論を介した感情的反応の創り直しにもかかわらず、道徳に関する感情理論が抱えていたバイアスのリスクが依然としてつきまとうことを確認した。こうした考察を踏まえ昨年度は、自然主義の側からの理性主義的道徳の「虚構性」に関する見解を検討したが、実は理性主義者の中にも、そうした虚構性の問題を自覚しながらも、「実践的」で批判的理念としての道徳の可能性を構想した哲学者にカントがいること。そしてこの「実践的」理念の意義が、自然主義との統合の可能性を探り、さらに上記のバイアス問題に対処する上で、一定の示唆を与えてくれることを示すにとどまっていた。本年度はこの示唆をより明らかにするために、「尊厳」などの形而上学的概念を取り上げ、それが「正義」や「権利」などの法的、社会的に機能している概念につきまとう形式性の限界に関する課題を乗り越える可能性を有すること、そしてそこには感情が補助的に機能する可能性があることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
理性が理性自身の誤り、越権を批判できることを明らかにし、その視点を踏まえて道徳の可能性を語ったのがカントであるが、カント自身は、もう一方で経験科学の認識が心の領域に広がる可能性についても、当時としては真摯に受け止めていた。それは今日の道徳に関する自然主義的な研究の進展の可能性を見通したものとも言える。そして経験科学的な研究が一定程度実用的である一方で、そうした研究の限界についてもカントが考慮していた点を、本年度は、理性主義と自然主義の道徳理論との統合を考える上での参考にする予定である。その際、理性が道徳の原理の構築に寄与するだけでなく、その構成に基づく実践への感情的反応を踏まえて、理性自身が自ら構築した原理を反省・批判できる機能に注目し、その二重の機構を組み入れた新しい形の道徳理論を構想してみたい。
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