研究課題/領域番号 |
18K00145
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅雄 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20251332)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2018年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | マンガ史 / 近代視覚文化 / 静止イメージ / 近代的視覚文化 / マンガ論 / 視覚文化論 / 19世紀フランス文化 / ポスター / 絵本 / マンガ |
研究実績の概要 |
近代の視覚文化における、映画やテレビなど「動くイメージ」の重要性は疑いようがないが、イラストやポスター、マンガといった静止イメージ・メディアもまた、近代特有の「視の制度」を体現している。そうした視覚イメージの構造の解明を目指して、2018年度から2019年度にかけてマンガに関するワークショップを開催し、予定よりかなり遅れてしまったものの、2022年4月にはこれをもとにした論集を刊行することができた。論集の制作過程を通じ、美術史や表象文化論、メディア論などの観点からマンガのイメージをいかに捉えるかについてさまざまな論点が浮かび上がったが、2022年度はそれらの成果を踏まえ、近代的なメディアとしてのマンガが19世紀以降の欧米でたどった形式的な変遷を、特にコマ構造を中心に据えて理論化する作業を進めた。必ずしも十分なアウトプットはできなかったが、こうした研究の成果の一部は、近代的なキャラクター表現と美術(特にシュルレアリスム)の関連に関する論考、およびポスターやマンガと同様に重要な近代的イメージ・メディアである絵葉書についての論考という形で発表した。 他方、作業のもう一つの軸である、フランスを中心とした19世紀のマンガに関する資料調査は、予定していた出張の直前にコロナ・ウィルスに罹患してしまい、渡仏を断念することになったため、昨年度に引き続き、今年度も思うようには進まなかった。ただしネット上で閲覧できる文献の調査は続行している。また2022年8月にフランスで開催された、20世紀フランスの写真家・作家であるクロード・カーアンについてのシンポジウムには、オンラインでの発表という形で参加し、19世紀の活人画と現在の自撮り写真をつなぐイメージ操作の系譜に関する報告を行ったが、その際も他の参加者との意見交換のなかで有意義な示唆を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要欄に記したとおり、連続ワークショップの単行本化を2022年4月に実現できた。その後は、この数年間に多くのマンガ研究者や表象文化論の研究者とのやり取りから得たアイディア、および自分自身の調査結果にもとづいて、マンガを中心とした近代視覚文化に関する単著の刊行を最終目標とした作業を続けている。フランス文学研究者であるとともにマンガ研究者でもある中田健太郎氏の協力を得て進めたワークショップでは、中田氏の人脈もあって、多分野の優れた研究者に参加してもらうことができ、多くの論点を掘り下げることができたが、一方の19世紀フランス語圏におけるマンガ関連資料の調査は、2年続けてフランスへの出張ができなかったため、停滞していることは否定できない。前年度までに収集した資料の精査や新たな資料の可能な範囲での発掘は続けたが、想定していた形での進行は困難で、さらに1年研究期間を延長し、2023年度も調査を継続することにした。 こうした予定変更は残念だったが、収集した資料を調べるうちに、19世紀後半から20世紀はじめにかけての欧米で、日本のマンガを含めた現在のマンガ表現の基本的な構造が成立したという見方に確信を強めた。だがそれとともに、その時点から現在までのあいだに変化したものの多さもあらためて実感した。この10年ほどのうちに編集した3冊のマンガ論集に発表した原稿を整理・総合して単行本に仕上げる作業を続けているが、以上のことからいくらかパースペクティブを見直す必要も感じ、刊行予定時期を明言できる段階にないのは事実である。だが実績の概要で書いた通り、美術史や写真史などとクロスする領域で自分自身のイメージ論を捉え返す機会を得たことは、この目標に近づくためにも意義のある経験だった。資料面での発見が少なかったのは残念だが、意味のある1年だったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
フランスにおける資料収集作業が進まなかったことを主要な理由としてさらに1年期間を延長したが、最終年度となる2023年度はフランスへの出張を含めた調査の続行と、その結果に基づいた研究成果の総括が中心的な課題となる。これまでに編集・刊行した3冊のマンガ論集それぞれに2本ずつ論文を執筆してきたので、実績の概要や進捗状況でも書いた通り、これをもとにして、研究の総括となるような単行本の刊行を目指していく。出版社とはすでにこの件でのやり取りをしているが、2023年度中の完成は難しい状況なので、単行本のなかで取り上げる必要があるものの、これまでの論文ではカバーできていないような問題についての論考を執筆し発表することを、とりあえずの作業としたい。具体的には、20世紀初めまでに英語圏で成立したマンガの形式(フキダシの全面的な採用など)がフランス語圏に輸入され、徐々に広まってゆく両大戦間期について、調査を続けるとともに論考をまとめようと考えている。8月にはフランスでの現地調査を予定しているが、これにもとづいた論考を、大学の紀要あるいは所属コース編集の研究誌に発表する予定であり、また運よくこれ以外の発表媒体が見つかるようなら、そうした機会も積極的に活用したい。 また2024年3月にはグラスゴー大学を訪れてイメージ論の研究グループと交流し、当地の研究会で報告をすることがほぼ決まっている。さらに人脈を広げる機会であるとともに、この研究の総括と位置づけられるような報告をしたいと考えている。 なお、この研究とも関係の深い研究課題が、2023年度から3年間の科学研究費として採択されている。そちらはシュルレアリスムと大衆文化の関係を扱うものだが、そこでもマンガやポスターの問題は重要であり、今回の研究の成果を次の課題のなかでさらに発展させることを意識しながら、最終年度の総括を行いたい。
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