研究課題/領域番号 |
18K00195
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
小林 裕子 京都橘大学, 文学部, 教授 (30409601)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2020年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2018年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 仏像 / 造寺司 / 奈良時代 / 造仏工 / 下図 / 天平彫刻 / 造東大寺司 / 官営造仏所 / 画像計測 / 造形的共通規範 / 三次元測量 / 唐代 / 三次元写真計測 |
研究実績の概要 |
本研究は、奈良時代の寺院造営を担う役所であった造寺司の下位組織「官営造仏所」に仏像制作の造形的共通規範が存在したことを明らかにするものである。 研究遂行にあたっては、①仏像各箇所法量の写真計測、②造形的共通規範の検討、③工人が制作した下図(したず)を明らかにする、④文献にみえる造仏記事の考察、⑤中国と朝鮮半島の作例検討、⑥発表、というプロセス予定だった。これにしたがい平成三十年度(2018)は①をおこない、2年目は①の画像加工と④の文献整理、3年目は②のための作図及び法量計測のためのソフト「Kuraves-MD」(倉敷紡績)の導入と進めてきた。本研究は平成三十年度に3年間の予定で開始したが、海外調査を予定していた令和元年度末(2020)から世界的なコロナの流行により渡航不能になり、海外での資料取得ができなくなった。こうしたなかで令和三年からは延長措置をいただき、①③④を充実させることに専念してきた。さらに別研究で滞在したエジプトで、神殿や墓室にみえる下絵の画像を収集した。エジプト美術は本研究と時代も地域も大きく異なるものの下絵がのこされている箇所が多く、作画過程がよくわかる。とくに下絵の段階で墨と朱を使い分けてエスキースを重ねる技法は、本研究にも大いに参考になった。そして令和四年度は国内のデータのみで②を熟考した結果、新たな糸口を発見したため新規研究として基盤研究(C)に応募して採択されるに至った。そもそも本研究は、古代寺院がいかに多角的総合的に造営されていたのか解明するための核を検討するものである。寺院造営を類推できる文献である資財帳や写経所、造仏所、造寺司関係の書類には細かいところまでは記載されておらず、現存する材料から理解していくほかない。しかしながら新規研究は本研究を軸に展開するため、令和五年度は同時進行することでより密度の濃い仕上げができるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が遅延している大きな理由は、国内の作例に対してその源流や通過点である海外の作例からデータを取得できないことにある。報告者の身体事情により海外調査に出ることに不安があり、これまで国内の作例研究しかできなかった。そのため、本研究のプロセスとして挙げている①仏像各箇所法量の写真計測、②造形的共通規範の検討、③工人が制作した下図(したず)を明らかにする、④文献にみえる造仏記事の考察、⑤中国と朝鮮半島の作例検討、⑥発表のうち、⑤中国と朝鮮半島の作例検討を実行できずにいたのである。⑤の過程を踏まなければほかのプロセスも進められず忸怩たる思いであったが、現状では国内で取得できる①・④について思いのほか密度の濃い研究ができたため、新たな研究への一歩を踏み出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
中国清乾隆七年(1742)工布査布師訳『造像量度経』に仏身各部の比率を示され、経典に記される像高と連動していることがわかる。建築では、北宋崇寧二年(1103)刊行の李誠撰『営造法式』のごとき建築技法書がある。しかし、竹島卓一氏は同書には建築の高さ、柱間、桁行などの決定方法や標準といった計画の基礎となる事項についてまったく記載がなく、それは同書を利用する人ならば当然知っておいてしかるべきか、ほかに拠るべきものがあったかと推察している(1959)。一方、奈良時代の文献でも、寺院建築の規模を「長(桁行)」・「広(梁間・奥行)」・高の3点で記すなかで、高さを省略する場合がある。そして仏像の方は名称や数のほか像高しか表記されない。そもそも経典でも像高しか記されないために、仏像が時代によって痩せたり太ったりするのである。寺院建築は仏像を安置する入れものであるため、像高によって建物の高さが決まり、安置仏の数で空間規模が決まったことだろう。本研究が仏像制作における下図(したず)に注目しているのは、上記のような寺院造営そのものを俯瞰的にとらえたいとの目的があるからである。 中国のような整備された文献史料があるわけではないが、日本の作例に対しても太田古朴氏や明珍恒男氏の「仏像を数値化しようと試みた」先行研究が存在する。とくに太田氏は現存作例を図面におこして分析しようとしているが、あくまで木彫に対するものであり、金銅仏や乾漆仏が多かった7・8世紀に作例にはあてはめられてこなかった。しかし中国には荘厳具を仏像をセットで視認できる石窟が現存する。本研究では、核となる仏像がいかに空間に据えられたかを下図(したず)の面からとらえようと、まずは国内の作例についてまとめ段階に入っている。コロナの制限もなくなりつつあり、報告者の身体事情も解決したため、研究の仕上げとして海外調査をおこないたいと考えている。
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