研究課題/領域番号 |
18K00336
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
小林 一彦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (30269568)
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研究分担者 |
彬子女王 京都産業大学, 日本文化研究所, 研究員 (20571889)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2018年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 書誌学 / 伝統産業 / 最先端技術 / 複製古文書・古典籍 / 書物文化 / 産学連携 / 京都学 / 次世代への継承 / 複製文化財 / 複製古文書 / 複製古典籍 / 伝統文化 / 伝統工芸 / 最先端複製技術 / 複製品の活用 / 和本リテラシー / 墨筆再現コピー |
研究実績の概要 |
コロナ禍で社会活動が制限され、企業との産学連携も思うようにならない状況にありながら、簡便な方法により複製古典籍を製作し、それを用いて6月(招待講演)と12月(学会発表)に、主として書誌学的な見地から研究成果を公開した。 前者は、人間文化研究機構国文学研究資料館創立50周年記念式典において、招待講演「ほんの枕を―古典籍の『もてなし』『あひしらひ』から―」と題し、宮内庁書陵部蔵の寂蓮「少輔入道百首」の複製古典籍を、原本所蔵機関の許可を得て独自に製作し、該本の現在の状態がどのような過程を経てもたらされた結果であるのか、明らかにした。専門業者に依頼して動画を制作し、国文学研究資料館の専用YouTubeチャンネルから世界に向けて配信を行った。 後者は、和歌文学会第140回関西例会(12月例会)において、「鴨長明『無名抄』その原態と流布―鎌倉期和歌史のために―」と題して研究発表を行った。『無名抄』は鎌倉時代に遡る古写本が比較的多く残っており、異本と呼ばれるような伝本はない。書入により成長したり改編されたりすることの多い歌学書としてよりも、本文の内容が読み物として十分に面白く和歌説話的な随筆として受容されたからであろう。ただし、章段見出しには異同が見られ、特に冒頭部の有無の違いは特徴的で、その相違が如何にして生じたかは、原本の形態を推定することで明らかになると考えた。現存諸本には巻物(巻子装)のかたちをとる古写本はないが、最古写本である綴葉装(列帖装)の東京国立博物館蔵本(梅沢本)の画像データをカラー印刷し、一巻の巻子装に仕立ててみると、こうした疑問は氷解することを実証した。 公的機関による貴重な資料が、所蔵機関により著作権フリーのデジタル画像として公開する動きがますます顕著になっている。オープン化されたデジタル・データを活用することで、研究の深化と成果の公開を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人間文化研究機構国文学研究資料館の創設50周年記念式典の招待講演において、研究成果を世界に向けて動画配信することができた。宮内庁書陵部蔵の寂蓮法師「少輔入道百首」の綴葉装(列帖装)による私製複製を作成し、それを使用した。その反響は研究代表者の想像を超えるものであった。①綴葉装(列帖装)一括の一部が、偶発的に谷折りから反転して山折りとなったために、二括の綴葉装が誕生したこと、②それと同じ原理で二括の綴葉装では、前表紙(料紙一枚)が山折りから偶発的に谷折りとなって一回転すると、そのまま前表紙が後見返しに、裏返った前見返しが外側に出て後表紙となること、などを動画で再現して見せた。これまで奥書と見られていた寂蓮法師の「少輔入道百首」が実はこの事例にあたり(現状の綴じはもっと複雑であるが)、製作した複製古典籍から親本の状態をイメージできるように、わかりやすい動画になるよう工夫をこらした。複数の書誌学を専門とする研究者からも、まさにコロンブスの卵だという声を直接いただいた。実際の古典籍は貴重な文化財で、持ち上げたり、表紙を裏返して反転させ強引に後ろへと持っていくことはできないが、複製古典籍の場合にはそれが可能であり、そうした過程で筆跡の異なる(複数の筆跡は俊成筆、定家筆と考えられている)墨書が奥書ではなく、表紙に直書きされた「覚え」であり、歌道宗匠家に蓄えられた私家集の管理およ内容の和歌作品の評価の実態を示すものであることを、あらためて確認することができた。 こうした定家による私家集の管理と評価は、「賀茂女集」(賀茂保憲女の家集)の前表紙に直書きされた文字と同じであるが、そうした判断も、複製古典籍を製作によって発見が容易になることの好例である。書誌学、古典文学の研究に新しい視点を提供することができることを証明でき、研究計画立案時の学術面での目的は達成されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究課題を立案する契機は10年ほど前に遡る。当時の富士ゼロックス京都が手がけていた最先端技術、世界最高レベルの電子複写技術を用いた手漉き和紙にトナーを転写させるコピーによる、複製古文書・古典籍の製作を目にしたことに発する。この複製技術を用いて古典籍を製作し、和紙と墨によって継承されてきた日本の古典文化を、世界に、また次世代に、広く発信継承するようなことはできないか。また、新たな視点を書誌学研究の分野に提供することで学術研究の進展に寄与できないか、それが当該研究の骨子となっている。 研究計画を構想した当初は、ホームページを製作し、そこに画像をアップすることが有効だと考えていた。しかしながら、静止画のホームページよりも、簡単な動画配信が対費用効果効果の点でも数段勝ることから、方針を転換、複製古典籍を用いたYouTube配信を用いて、発信を行うに至った。 研究の最終年度を迎えるにあたり、コロナによる社会活動の制限も解除されつつある。今後は、もう一つの課題である次世代へ継承を、研究の柱である産学連携を活用して、実践していきたいと考えている。具体的には、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン京都支社MS部「文化推進京都工房」の協力を得て、子どもたち向けのワークショップを実施する。文化財は貴重であり、陳列ケースの中でしか見ることはできない。写真では、手触りなどの質感、また重さなどモノとしての存在感を肌で感じることは不可能である。本物さながらの複製古文書・複製古典籍を、子どもたちに自由に触ってもらいながら、平安時代の江戸時代の日本人は、どのように読書を楽しんでいたのか、書物がいかに日本の文化を支えてきたのかを、書誌学や古典文学研究者の立場から、書物文化を次世代に伝えていく活動に注力したいと考えている。
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