研究課題/領域番号 |
18K01166
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
|
研究機関 | 東京外国語大学 (2020-2022) 東京大学 (2018-2019) |
研究代表者 |
大坪 玲子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (20509286)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2018年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | イエメン / 移民 / 難民 / カート / 嗜好品 / 韓国 / 内戦 / ムスリム / 違法薬物 / 文化浄化 / イスラーム |
研究実績の概要 |
当初計画していたアラブ首長国連邦での調査は、新型コロナウィルスの感染拡大のため断念し、調査可能な韓国で調査を実施した。韓国には500名以上のイエメン人がイエメン内戦を逃れてきたが、ほとんどのイエメン人は人道的滞留許可を得て生活している。彼らへの聴き取り調査から、ヨーロッパに住むイエメン系移民同様に、韓国においても彼らはカートを熱望していないこと、また積極的にカートについて語ることができないことがわかった。ヨーロッパ同様に韓国においてもカートは違法薬物であるが、韓国では彼らは“難民”であり、常に差別の対象であることも関係している。カートの代替品を見つけた者もいるが、代替品にはカートのように気の置けない友人が集まるというような結衆の効果はない。またカートを噛む習慣を身につける前にイエメンを出た若者も少なくない。ほとんどのイエメン人にとって休日は日曜日であり、モスクでムスリムと交流するというわけでなく、スマートフォンで家族と話したり、動画を視聴したりしてすごす。その意味でスマートフォンが彼らの新たな嗜好品とも言える。カートがコミュニティ形成に使われるわけではなく、彼らが韓国社会からカートとともに排除されるからと言って、強力なアイデンティティを模索しているわけでもないことが明らかになった。 以上のような調査結果をもとに、イエメン人がカートとともに排除される現状を国立民族学博物館主催のシンポジウムThe 1st International Symposium of the Indian Ocean World Studiesにおいて‘From the Edge of the Indian Ocean: Qat as a Symbol of Inclusion and Exclusion’として、韓国・朝鮮文化研究会第83回研究例会において「韓国で働くイエメン人」として報告を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた調査地とは異なるが、韓国では有意義な調査ができ、成果も発表することができた。 本研究では初年度にイギリスとオランダ、次年度にドイツで現地調査を行った。ヨーロッパでの調査対象は主にイエメン系「移民」であり、彼らはヨーロッパ社会で「見えない」存在であった。韓国で調査したイエメン人は「難民」であり、彼らが韓国に来たことで難民問題やイスラモフォビアが議論され、見た目も韓国人と異なることから「見える」存在である。そのため韓国に住むイエメン人の方が露骨に差別されている。欧米諸国でカートの違法薬物化にはソマリア系難民・移民の存在が大きかったが、韓国ではカートがイエメン人と直接結びついている。イエメン人として、ムスリムとして、そし「難民」として排除される一方で、安価な外国人労働者として韓国社会から必要とされている矛盾が明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
嗜好品が結衆の手段から個人の楽しみへと役割を変化させることはこれまで論じてきたが、そこに差別のまなざしが加わった場合、嗜好品は結衆の手段どころか単なる個人の楽しみとしてさえも機能しない。韓国に住むイエメン人がカートについて積極的に語れない理由についての調査を実施し、韓国における嗜好品や薬物の社会的な位置付けも検討し、これまでの調査結果と合わせて考察を進める。5月に日本中東学会第39回年次大会、10月に19th IUAES-WAU World Anthropology Congressにおいて報告し、学術論文や書籍を日本語や英語で刊行し、成果を社会に還元する。また韓国人研究者と韓国のイエメン人についての国際ワークショップの開催を予定している。
|