研究課題/領域番号 |
18K01225
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05010:基礎法学関連
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
北野 かほる 駒澤大学, 付置研究所, 研究員 (90153105)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2018年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 中世イングランド社会 / rape / 民事侵害訴訟(rapeの) / 重罪私訴(rapeの) / 正式起訴(rapeの) / 婚姻継続不能(消滅)申立 / 教会法上の離婚 / 中世後期イングランド社会 / 婚姻継続困難被害申立 / 民事離婚(教会法によらない) / 重罪私訴 (rapeの) / 正式起訴(rapeの) / レイプ / 世俗法上の「離婚」 / 婚姻継続不能条件 / 女性を被害者とする暴力 / 婚姻 / 離別 / 教会法 / 世俗法 / 家族継承財産 / 侵害訴訟 / 生前離別 |
研究実績の概要 |
コロナ禍のため、安定した海外調査時期・期間の設定が難しく、国内で主にウェブサイトに写真掲載がある原史料の閲覧調査に限定して研究調査を継続した。 主に用いた資料は AALT (Anglo-American Legal Tradiction)http://aalt.law.uh.edu/ から、ヘンリー4世期http://aalt.law.uh.edu/HenryIV.html の王座裁判所記録集KB27である。 この調査は従来から引き続き実姉しているものだが、①明らかにrape に該当する語が使われているもの のの他、②それ以外の暴力的民事侵害として女性が訴えを起こしているもの ③女性が暴行ないし誘拐の被害者であるもの ④夫婦が妻への暴力を訴えているもの につき、a 民事侵害訴訟開始手続 civil trespass b 重罪私訴手続 appealc 一般的刑事裁判開始手続である正式起訴手続 indictment のそれぞれについて抽出していくという手法を継続した。
結果として、①にはa が最も多く bは少数だがこれはそもそもappeal の数が多くないことも関係していること、対してcは極めて少ないこと の確認がより強く裏付けられるほか、女性が被害者=原告でなく、未成年の被後見人(発見し得た限りでは男性)が被害者であるとして後見人が原告となっているものが一定数認められること ②~④には性的被害であることを直接伺わせるものがないこと が明らかになってきている。 ここから語"rape" は、具体的行為内容を問わず「婚姻(継続)資格喪失につながる行為」を意味したという推測が成り立つ。これについて、教会裁判所の離婚認定事案とも対比させながら、イングランド中世におけるrapeの社会的意味の考察を続ける。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度に引き続き、コロナ禍による日本側の渡航規制措置とイギリス側出入国規制措置との噛み合わせによる渡航滞在時期判断が難しく、また、規制緩和により渡航した知人がコロナに罹患して研究活動も帰国も困難になるケースがいくつか出たこともあり、最終的に渡航調査を見合わせた。 国内でもWebを用いた調査の継続はできたが、ネット上で調査できない史料(地方史料館とりわけロンドン市の諸裁判所のデータおよび中世の教会裁判所の裁判記録等)については、一切調査をかけることができなかった。 中世の教会裁判所記録とりわけカンタベリー管区教会裁判所については、ロンドン司教がこれを代行するCourt of Archの中世の記録が一箇所にまとまるかたちで伝来していない(ロンドン司教は終身職でなく、いずれ他司教区に移動を命じられるが、教会裁判関連記録は、これを担当した者が自らの移動に帯同するのが当時一般的であった)ため、カンタベリー管区教会裁判を担当したことがある個々の司教について、後にまとめられた手元文書史料集を渉猟しないと裁判実務の詳細がわからない。一部については編纂された観光資料集になっているが、これは、日本国内には入っていないため、これについても調査をかけることができなかった。 ネットを使っても、王座裁判所からさらに人民訴訟裁判所へと調査の枠を横に広げることは可能だが、試行の限りでは、人民訴訟裁判所へのrape 侵害訴訟提起の例は多くないようである。 複数情報源からの調査結果を綜合しないと、従来のカトリック社会の婚姻像に根底から牴触することにもなる上記仮説の裏付けが得られたとは言えない。これが、申請者が、研究進捗は遅れていると判断する最大の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍による日本国の渡航規制および再入国規制が緩和され、また、調査対象国イギリスの出入国・滞在規制も緩和されてきたところから、本年度下半期に渡航して現地調査をする。 これまで国内で可能な限りの原史料情報からの調査を重ねてきたが、いずれにせよ、教会裁判所の離婚もしくは婚姻関係不継続判断の事案内容と頻度を調査してこれと対比しないかぎり、「イングランド中世においてrape民事侵害訴訟は婚姻関係継続不能さらには消滅の訴え=民事離婚訴訟として機能していた」という当初の仮説の裏付けを全うすることができない。従来の調査からrape民事侵害訴訟がかなりの頻度で提起されていること、しかも、本来の損害判定に至らずに消滅するケースが極めて多いこと、しかも、rape侵害訴訟に関する限り、遅延に対する法廷侮辱罪相当の措置が一切採られていないこと、等、従来の調査から、上記仮説を裏付けると思われるデータは蓄積されているが、申請者は、単一の情報源からこの仮説が裏付けられたと判断することを逡巡している。 このため、その調査結果と、上記の従来の調査結果を綜合して、研究当初の仮説「中世イングランドにおいてrape 民事侵害訴訟は実質的に婚姻関係継続不能もしくは既に消滅」を広く社会に告知する(公然化する)目的で提起された」という仮説を、どの程度まで裏付けることができるかを検討し、次年度以降に研究成果を公表する準備をする。
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