研究実績の概要 |
研究代表者(長倉富貴)の逝去により研究計画の完遂には至らなかったが, 以下に進捗及び成果を報告する。 進捗として以下の2点に着手, 一定の進捗を見せた。第1に, 学生アスリートの競技・学業・キャリアの両立を可能にするマネジメント・コンピテンシーの解明である。デュアル・キャリア・コンピテンシーを測定する尺度(De Brandt et al, 2017)の原著者から許可を取りトランスレーション, バックトランスレーションを行い日本語版尺度の作成のため290名の学生アスリートからデータを取得した。第2に, 学生時代にエリート・スポーツの競技生活引退後, 企業人としてめざましいキャリア形成を果たした人材に, デュアル・キャリア・コンピテンシーについてヒアリング調査を行った(2名から)。データの取得及びデータ分析にかなりの進捗を見たものの, 論文にまとめるには至らなかった。 成果として, 以下の2点を得た。学生アスリートは, 少なくとも学業・競技・キャリア形成の三足の草鞋を履くことになる。つまり, 複数のキャリア領域を両立させることをそのマネジメント課題としている。そこで, 学生が複数のキャリア領域に注力することが, キャリア成熟をどのように促すか, 質問紙調査を通じて解明に取り組んだ。調査の結果, 複数の領域に跨った行動に従事するだけでは不十分であり, 体験学習サイクルを通じた領域間のブリッジングを行うような認知的活動を行わなければ十分なキャリア成果にはつながらない可能性が高いことが明らかになった。当該調査の結果は論文として公表した(石川・幸野・長倉, 2021)。 次に, 競技生活に従事すること/しないこと, と入職後のプロアクティブ行動の関連を探った。競技生活は大学の成果内学習とは種々の面で異なると思われるが, その学習成果との関連から競技生活の特質を明らかにすることを試みた。学卒後1年目~3年目を対象に競技に従事した/しなかったという学習行動の差異が入職後のプロアクティブ行動の変動をどの程度説明するか検討した。約120名から質問紙調査の回答を得たデータを分析した結果, プロアクティブ行動のうち「フィードバック探索行動」に効果が見られ, 「革新行動」「ポジティブ・フレーミング」には効果が見られなかった。重要なことは, 2つ以上のキャリア領域で高い活動性を継続的に発揮し続けることであることが見えてきた。特定のキャリア領域に閉じこもることはむしろキャリア形成の不適応を産む結果に繋がりやすいことが見えてきた。当該調査の結果は論文として公表した(石川・原, 2021)
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